研究者判例評釈
学生判例評釈(民事系)
学生判例評釈(公法系)

国籍法3条1項違憲判決

最高裁判所大法廷平成20年6月4日判決(最高裁ホームページ
2008.6.15 伊藤 朝日太郎
〔判旨〕
 

判旨 破棄自判 
1、「日本国籍は、我が国の構成員としての資格であるとともに、我が国において基本的人権の保障、公的資格の付与、公的給付等を受ける上で意味を持つ重要な法的地位でもある。一方、父母の婚姻により嫡出子たる身分を取得するか否かということは、子にとっては自らの意思や努力によっては変えることのできない父母の身分行為に係る事柄である。したがって、このような事柄をもって日本国籍取得の要件に関して区別を生じさせることに合理的な理由があるか否かについては、慎重に検討することが必要である。」

「国籍法3条1項は、同法の基本的な原則である血統主義を基調としつつ、日本国民との法律上の親子関係の存在に加え我が国との密接な結び付きの指標となる一定の要件を設けて、これらを満たす場合に限り出生後における日本国籍を認めることとしたものと解される」が「上記の立法目的自体には、合理的な根拠があるというべきである。」

そして、立法当時には、準正要件は「立法目的との間に一定の合理的関連性があった」。 しかし、その後の社会通念及び社会的状況の変化などを考慮すれば、「日本国民である父が日本国民でない母と法律上の婚姻をしたことをもって、初めて子に日本国籍を与えるに足りるだけの我が国との密接な結び付きが認められるものとすることは、今日では必ずしも家族生活等の実態に適合するものということはできない。」

「また、諸外国においては、非嫡出子の法的な差別的取扱いを解消する方向にあり、国際人権規約(自由権規約)や児童の権利条約には出生による差別を禁止する規定が存在しており、多くの国で準正要件が撤廃されてきている。」

「以上のような我が国を取り巻く国内的、国際的な社会的環境等の変化に照らしてみると、準正を出生後における届出による日本国籍取得の要件としておくことについて、前記の立法目的との間に合理的関連性を見いだすことがもはや難しくなっている」。

2、他方で、国籍法2条1号により、「日本国民である父から出生後に認知された子のうち準正により嫡出子たる身分を取得しないものに限っては」日本国籍の生来取得も伝来取得もできないという「著しい差別的取扱い」が生じている。

「このような差別的取扱いについては、前記立法目的との間に合理的関連性を見いだし難いといわざるを得ない。とりわけ、日本国民である父から胎児認知された子と出生後に認知された子との間においては、日本国民である父との家族生活を通じた我が国社会との結び付きの程度・・・という観点から説明することは困難である」。

3、これらの事情をあわせ考えるならば、「国籍法が・・・上記のような非嫡出子についてのみ・・・生来的にも届出によっても日本国籍の取得を認めないとしている点は、今日においては、立法府に与えられた裁量権を考慮しても、我が国との密接な結び付きを有する者に限り日本国籍を付与するという立法目的との合理的関連性の認められる範囲を著しく超える手段を採用しているものというほかなく、その結果、不合理な差別を生じさせているものといわざるを得ない。」

4、結局、原告らが法務大臣あてに国籍取得届を提出した時点において「国籍法3条1項の規定が本件区別を生じさせていることは、憲法14条1項に違反するものであったというべきである。」

5、平等原則と、父母両系血統主義を踏まえれば、父から出生後に認知されたにとどまる子「についても、父母の婚姻により嫡出子たる身分を取得したことという部分を除いた同項所定の要件が満たされる場合に、届出により日本国籍を取得することが認められるものとすることによって、同項及び同法の合憲的で合理的な解釈が可能となるものということができ、この解釈は・・・不合理な差別的取扱いを受けている者に対して直接的な救済のみちを開くという観点からも、相当性を有するものというべきである。
そして、上記の解釈は、本件区別に係る違憲の瑕疵を是正するため、国籍法3条1項につき、同項を全体として無効とすることなく、過剰な要件を設けることにより本件区別を生じさせている部分のみを除いて合理的に解釈したものであって、その結果も、準正子と同様の要件による日本国籍の取得を認めるにとどまるものである。この解釈は・・・血統主義の要請を満たすとともに、父が現に日本国民であることなど我が国との密接な結び付きの指標となる一定の要件を満たす場合に出生後における日本国籍の取得を認めるものとして、同項の規定の趣旨及び目的に沿うものであり、この解釈をもって、裁判所が法律にない新たな国籍取得の要件を創設するものであって国会の本来的な機能である立法作用を行うものとして許されないと評価することは、国籍取得の要件に関する他の立法上の合理的な選択肢の存在の可能性を考慮したとしても、当を得ないものというべきである。」

6、なお、本判決には、5裁判官の反対意見、6裁判官の補足意見、1裁判官の意見が付されている。反対意見を述べた裁判官のうち、甲斐中・堀籠裁判官は、「違憲となるのは、非準正子に届出により国籍を付与するという規定が存在しないという立法不作為の状態なのであ」り、多数意見による国籍法3条1項の解釈は「準正子を出生後認知された子と読み替えることとなるもので、法解釈としては限界を超えている」という。


< 前のページへ | この評釈のトップへ | 次のページへ >