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留学体験記
〜ペンシルバニア大学ロースクール(LL.M. 2007)〜


2006.9.23 原 優子

1.留学まで
 私は社会人経験を経て2005年に早稲田大学法科大学院(以下、早稲田LS)に入学しました。早稲田LSに決めたのは、同校が海外ロースクール(コロンビア大学・ペンシルバニア大学・コーネル大学等)との交換留学制度を設けていたことに惹かれたからでした。同校では、例年10月頃に留学志願者の公募があり、志願者の中で選抜がなされます。選抜試験に合格すると、学長からの推薦状が頂け、高い確率で提携校に入学することができます。これらの過程を経て、私は米国ペンシルバニア大学ロースクールへの留学の切符を手にすることができました。

2.ペンシルバニア大学の特徴
 ペンシルバニア大学は、東海岸のフィラデルフィアという街にあります。フィラデルフィアはアメリカ合衆国憲法発祥の地としても知られる歴史のある街であり、治安が良くない点を除けば、NYからも電車で1時間の距離にあり、都会的な生活を送る上で不自由のない場所です。

 LL.Mの学生は約90人で、私の学年は全世界36カ国からやってきた学生により構成されていました。私の留学した年は日本人が4名と近年稀なほど少なく、一方で韓国や中国等のアジア諸国からの学生が増えたようです。

 ペンシルバニア大学ロースクール(以下、PennLaw)では、LL.M.の学生にサマースクールへの参加を義務付けています。サマースクールの期間中(7月末〜8月)の授業は毎日2科目(Legal ResearchとIntroduction for American Law)のみであり、比較的時間的な余裕があるため、この期間に現地生活に慣れるとともに、LL.M.の学生間での交流を深めることができました。

3.日米のロースクールの相違点
 しばしば、「米国のロースクールと日本のロースクールでは随分と授業や勉強方法が違うのでしょうね」といった質問を受けますが、私個人としては、さほど違わないという印象を持っています。

 例えば、授業について言うと、海外ロースクールが採用しているソクラテスメソッドは、日本のロースクールでも取り入れられています。そのため、日本で学部の授業のみを履修された方は別として、ロースクールで学んだ経験のある方なら、教授と学生との間で活発に行われる議論にもさほど驚くことはないと思います。

 また、予習・復習の量についても、米国のロースクールでは日本よりも格段に予習量が多いという噂を耳にします。確かに、全体的にPennLawの課題の量の方が早稲田LSのそれよりやや多い気はしますが、それは日本人が外国語たる英語で勉強しなければならない為の負担も加味されていると思います。どのロースクールにも予習・復習が少ない授業もあるので、予習量の多寡は程度問題ではないでしょうか。

 学生についても、早稲田LSの学生は、模擬裁判やクリニック、ローレビューの編纂など、授業外での活動も積極的に行っていますので、一概に海外のロースクール生のほうが課外活動に熱心であるとも評することはできないように思いました。

 ただ、米国はコモンローの国であるため判例の重要性が高く、成文法国である日本とは判例の勉強にかける比重の高さが違います。とは言っても、近年は米国でも成文法の位置づけが高まっており、日本でも判例の勉強は不可欠ですので、日米の差は縮まっていると思います。

4.日米の法律の相違点
 日米の法律が異なることは当然ですが、私は、Corporations(会社法)やM&A(吸収・合併)等の授業を履修するに際して、「日本の会社法は米国流の考えを導入しているので、たやすく理解できるだろう」と甘く考えていました。確かに類似点はあるのですが、安易な考えで外国法を学ぶことは非常に危険だということをすぐに痛感しました。

 例えば、日本の会社法では、買収防衛策導入の適否が問題となった場合に、株主総会の承認決議を経たことが同制度の採用を正当なものとして基礎付ける大きな要因となります。つまり、株主総会が会社の最終的な意思決定機関であるという考えが強く根付いているといえます。

 しかし、米国では会社の意思決定は、経営の専門家たる取締役(会)が行うものだという考えが基本であり、株主総会の承認を経たことは、その防衛策導入の妥当性を裏付ける一つの要素ではあるものの、決定的なものではありません。

 日米の法律の相違について、留学先の教授は当然に意識されずに授業をされますので、自分が抱いた違和感は逐一確かめていくしかありません。こうした「似て非なるもの」のギャップを埋めるのは骨が折れる作業ですが、渉外事務所等で勤務する際に必要とされるのはまさにこうした各国間の法の違いを説明する作業なのであり、そうした日本法と米国法との相違を学べたのは非常に有意義でした。

5.ユニークな授業
 授業の仕方には教授の個性が現れるものですが、米国の授業のバリエーションは日本のそれよりも随分と富んでいる印象を持ちました。

 例えば私が履修したEvidence(証拠法)の授業では、あるトピックについての説明や議論が終わった後に、教授がそれに関わる法廷物の映画(トム・クルーズの『A Few Good Men』等)のビデオクリップを見せ、そこで問題となる論点を学生に指摘させるということもありました。

 型にはまらずに法律を身近に感じながら授業を行うというスタイルは、もっと日本にも導入されてよいのではないかと思います。



合衆国外からの留学生等を中心とする1年のコース。修了するとマスター・オブ・ロー(Master of Laws)の学位が与えられる。


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