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エクスターン 法テラス壱岐法律事務所

2009.9.7 木原 望
派遣先:法テラス壱岐法律事務所
派遣期間:2008年9月1日〜2008年9月12日


 法テラス壱岐法律事務所は、2006年10月、当時ゼロワン地域であった長崎県壱岐市に、総合法律支援法に基づいて設立された日本司法支援センター(通称「法テラス」)の地域事務所です。
 法テラスは、司法改革の一環として創設され、司法過疎地域対策としても注目されています。私は、2008年度のエクスターンシッププログラムを履修するにあたり、「離島」の「法テラス」との理由で法テラス壱岐法律事務所を派遣先として希望しました。その主な動機は、(1)「離島」という特殊な地域性の中ではどのような弁護士活動が行われているのか、(2)弁護士が常駐することによってその地域がどのように変わっていったのか、(3)「法テラス」の課題とは何か、という点について実践的に検討したいと考えたからです。そこで、エクスターンシッププログラムを履修した学生の目線から、以上の点について検討した結果を報告したいと思います。

法テラスが設置されている壱岐市郷ノ浦
1.壱岐の地域性
 玄界灘に浮かぶ離島、長崎県壱岐市。南北17km、東西15km、島の端から端へ車を使えば1時間もかからないこの島に現在約31,000人が暮らしています。
 地図上では、最寄りの都市である福岡県博多市から近いように感じます。現に、博多へは高速艇で70分、フェリーで140分で行くことができ、県庁所在地の長崎空港へも、 飛行機で30分の距離にあります。しかし、船は一日3便、飛行機は、わずかに一日2便が運行されているだけです。また、運賃が高速艇が片道4,900円、フェリーが2,400円など、所要時間などと照らすと、通勤・通学などに日常的に利用することは困難で、市民の生活は島内で完結することを前提としているようです。
 壱岐観光協会のホームページを見ると、透き通った海、数々の旧所名跡、そして豊富な海の幸など本当に魅力的で過ごしやすい島のように映ります。実際、夏場は海水浴客ほか観光客でにぎわい、宿泊施設はどれも満室になるほど賑わっています。特に幻のウニといわれる「赤ウニ」、和牛飼育発祥の地で育った「壱岐牛」、そして焼酎発祥の地と銘打たれる壱岐焼酎は絶品で、どのパンフレットにも必ず紹介されています。私もこのような島の環境に魅せられてエクスターン先を決めたことは否定できません 。
 しかし、ふと市民の生活に目を移すと、他の過疎地域に同じような問題状況が散見されます。高齢化が進んでおり(高齢化率30%)、人口も減少傾向(−5%)が続いています。島の主な産業が漁業及び農業で、平地の少ない長崎県では2番目に広大な平野で稲作などが行われているほか畜産業も行われていますが、いずれも後継者不足は深刻なようです。島内の経済状況は決して良いわけではなく、多くの若者が高校卒業とともに島を出たまま戻ってこない状況は、他の過疎地域の例をみるまでもありません。
 私は、島を訪問した初日に、勧められたとおり観光がてら島の主たる集落をまわってみました(それでも3時間程度で島を1周できます)。滅多に人が訪れないような岸壁沿いの道、海岸線ぎりぎりに建物が建つ漁村、広大な田畑、高台の住宅地、主要な港湾沿いの昔ながらの商店街、国道沿いの大型商店など、あらゆる風景が小さい島の中に凝縮されているように感じました(ただし、コンビニはありません)。壱岐市最高峰(標高213m)の展望台にでも上らない限り、ここが島であることを忘れてしまいそうな、郊外都市と変わらない日常が展開されています。



2.法テラス壱岐法律事務所の設立経緯
 そもそも、法テラスの設置先を決定する段階で、壱岐市は候補に挙げられていなかったそうです。現在、法テラス壱岐法律事務所の初代所長として赴任しておられる浦崎寛泰弁護士は、こう振り返ります。

「その当時、管轄裁判所である長崎地方裁判所壱岐支部では、いわゆるワ号事件(第1審の通常民事事件)は年10件程度、ゼロワン地域対策として開所されていた『ひまわり基金・九弁連壱岐弁護士センター』(毎週木、金の2日間、福岡等の弁護士が相談に応じている)の相談件数も、2日間で平均3、4件でした。つまり、壱岐島内には、弁護士のニーズが存在せず、法テラスにせよ、ひまわり基金法律事務所にせよ、独立採算が難しく、司法過疎対策としての優先順位が低かったと思われていたのです。」

 しかし、赴任が決まる前に壱岐を訪れた浦崎弁護士は、パチンコ店に隣接する消費者金融の無人店舗の数をみて、こんな素朴な島にも法的紛争は必ず潜在化しているはずだと確信したとのことです。そして、弁護士が常駐することでそれらが顕在化し、結果的にこの島に住む人たちの生活が変わっていくのではないかと直感的に感じたそうです。
 そのように感じた浦崎弁護士が、「壱岐でなければ行かない!」と言わんばかりに説得した結果、遂に法テラス壱岐法律事務所が設置されることとなったのです。




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