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サフランの活動について

――今お話が出ましたがサフラン[3]の活動について河﨑さんにお話頂いても良いでしょうか?

河﨑:一番最初は震災後2011年の5月頃、何人かの弁護士で福島県内に法律相談に行くことになりました。その場では小児科の医師の方が「福島県内は放射線量が高く、政府から避難指示は出ていないものの、これまでの国際的な基準からすれば、健康に影響がありうるとされている地域だ。そのことを地域の住民たちに知らせるべきだし、そのためにどうすべきか考えている」という話をされていました。そのときに、地元の住民の方から「医者の人たちはそうやって踏み込んで、自分たちに情報を提供したり、自分たちを守るための活動をしてくれました。それに比べて、弁護士の人はどういった活動をしているんでしょうか」という話があって、それが私の心に刺さって、それから色々勉強したんです。
 この国の法律だとこれまでは年間1ミリシーベルトというのが一つの基準になってきていたわけです。それを超える状況にある人達、特に子どもを抱えるお母さんたちが非難しようかどうか迷っているときに、そこに対して何もしない訳にはいかないと考え、私自身も含め子育て世代の法律家に呼びかけて、サフランを作ることになりました。当初は東京の20代30代の弁護士たちが中心でしたが、今は福島、西日本、北海道などから、幅広い弁護士、司法書士が入っていて、登録者は70名程います。

――そういった法律家の方々が作ったサフランが中心になって、子ども被災者支援法[4]を制定するための活動をなされていたということですか?

河﨑:私達だけではなく、同時期に色々な人たちが色々なことを言っていました。それが一つに集まったのが被災者支援法でした。僕らが最初に取り組んだのはいわゆる「自主」避難、つまり政府指示による避難区域の外側の住民の方々の問題です。僕らが活動を初めた時期は新聞ですら扱われていなかったので、まずは社会問題化しないといけないということで、今コモンズに所属している福田健治弁護士などと一緒になって運動しました。
 その後にそこで関わった人達を中心に、国会の中で院内集会をやりました。そこでは、原子力損害賠償紛争審査会に対して公聴会を開くことを求めました。その甲斐あってか、夏の段階で出た中間指針では、損害賠償において自主避難というのを全く対象にしてなかったものが、2012年の12月に出た中間指針の追補では相当因果関係にある損害は自主避難であっても賠償するという一文が入りました。それはすごく画期的なことだったんですよ。
 ただ、損害賠償っていうのは、基本的には過去の出来事に対するものなんですよね。将来に対して何かできるものではない。低線量被曝などの健康影響があるかどうかわからない不安な状態に置かれること自体が損害だと僕らは考えているので、そういった状態にあり続けているという今の状況を打破するためには損害賠償だけでは駄目で、やはり立法が必要だということで、法律を作ろうという提案を年明けから始めました。それが子ども被災者支援法につながっていくという流れです。

――立法に携わるという点についてお聞きしたいのですが、特に弁護士が立法に関わる、という点に関して、そのメリットや限界などはあるのでしょうか?

河﨑:まあ、弁護士の限界というものはありますよね。例えば、最高裁判例が出ている問題に関して、法律で変えちゃおうなんて弁護士はなかなか思わないけど、議員さんたちは、そういうことを言える。
 ただ、基本的にはやはり法律学んだ人が立法の現場にいるっていうのはそれはメリットが多いですよ。これまで基本的に役所が法案を作り、そこに対して手出しができないとされていたところに、中身を読んで理解できるというのは弁護士ならではだといえます。法律を読む場合には、「何が書いてあるか」以上に、「何が書いてないか」が重要ですよね。書いてあることを字面どおりに読むことは難しくはないけど、これまでの類似の法律にある制度や手続が、この法律にはない、ということに気付けることが重要になるんです。その点は、やはり法律家、実務家であることで気付けるものだから、そういった人達が関わっていくというのは、僕はすごく意義のあることだと思いますね。

――今までずっと官僚を中心に作られていた政策形成過程に対して、法律家がある意味で風穴を開けられるというか、オルタナティブを作れるのではないかと思うのですが、そういった考えというのはお持ちですか?

河﨑:方向性としてはそう思います。ただ、それがそう簡単にできているのか、自分たちがどうなのかって言われると難しいところがあるんだけど、理想としてはそういう方向にいくべきだと思いますね。

――そのために今足りないものは何だと思いますか?

竹内:そこはまさにネットワークだと思うんですよ。日弁連としても、政策秘書や任期付公務員に弁護士を増やそうというキャンペーンをやっているんですけど、どういう働き方があるのかというところは、待ってても気付かないわけです。ニーズとして何があって、何ができるのかを考えて、実行してそれを発信していかないといけないと思います。
 例えば、法律案を役所が作ってきて議会に説明に来て、審議をするという今の立法の流れの中で、専門性を持っている法律家というのは、役所の人と対峙するという意味で、例えば官僚出身の政策スタッフと同じくらい、あるいはそれ以上の専門力はあると思います。例えば、立証構造を考えた上で法律を作れているかという視点は役所の人にはあまりないのではないでしょうか。
 あるいは、地方のレベルでは条例の制定支援を考えると、今はそれぞれの議会の事務局や議員さんが一生懸命考えて作られているんですけど、そこに弁護士がどんどん入っていったらクオリティが上がるんじゃないかと思うんです。
 例えば当事務所でも地方自治体の再生可能エネルギー条例の策定支援をやっている水上貴央弁護士がいます。これは、既に条例制定支援っていう枠組みがあってその仕事をしようというのではなく、再生可能エネルギーをやろうと思ってやり始めたら、そういう仕事があったんだということになりますよね。逆にそうすると次は、そういう条例を作るというところに法律家が入る余地があるんだ、あるいは作った後のフォローなんかもできるんだ、というところになると、自分以外の人もやることになると思うんですよね。
 弁護士の業界雑誌「自由と正義」に書いた[5]んですけど、目の前に出てきた問題を解決するというのが、課題解決型の政治との関わり方で、もうひとつが、ある問題を社会的に問題だからこれを解決したいという課題設定型という関わり方、2種類の関わり方がある中で、弁護士に限らず、政治とどう関わっていくかというのは様々な形があると思います。


[3] 福島の子どもたちを守る法律家ネットワーク(略称:SAFLAN)。政府指示による避難区域の外側からの避難者(区域外避難・自主避難)を支援することを目的とした法律家のネットワーク。
[4] 2011年3月11日に発生した福島第一原発事故の被災者、特に子どもに配慮して行う生活支援を目的として、子ども・被災者支援法議員連盟が中心とした超党派による議員立法。2012年6月21日衆議院本会議で可決成立し、6月27日から施行された。
[5] 竹内彰志「国会における弁護士スタッフの役割-政策立案活動の実際-」(自由と正義2013年4月号、2013)

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