対談・インタビュー
Legal Professionals
臨床法学教育特集
分配可能額計算システム





アート・ローとは何か

――今日はお忙しい中インタビューに応じて頂きありがとうございます。今回は福井先生に、アート・ローとは一体何だろう、ということを中心にお話を聞かせて頂ければと考えております。どうぞ宜しくお願い致します。
早速ですが、まず福井先生が専門とされている分野・取り扱っている業務について教えて頂けますでしょうか。

福井:そうですね、対象分野としてはよく「芸術文化法」と説明しています。僕自身は、出版、舞台イベント、映像、音楽、美術の大体5分野位しか扱っていなくて、すごくつぶしが利きません(笑)。
内容的には、1番目に多いのが契約交渉。2番目が広く法律アドバイス。その中でも一番多いのが著作権です。3番目が紛争処理。これも著作権絡みが非常に多いです。つまり、契約交渉と法的アドバイスと紛争処理を主に取り扱い、いずれも著作権が深く関わっています。

――具体的には、どのような相談を受けられるのでしょうか。

福井:クライアントが芸術文化活動のために必要としていることであれば、できることは何でもやります。芸術文化セクターという、どちらかといえばクライアントで切り分けるのが芸術文化法です。

事案分野としては、著作権を中心とする知的財産、もちろん契約法全般、それから投資、税務、入管・通関、保険、独禁法、各種行政法規。例えば、劇場などは消防法とかが関係するわけです。もちろん、債権回収もあります。
以前チケット会社が倒産したときに、チケット会社が既に売っていたチケット代金はどこかに消えてしまって、イベントの主催者には一銭も入らないということがありました。このときに当日お客さんが来たら入れなければならないのか、入れなくても良いのか。実は法的につめたところで、ビジネス的には入れざるを得ないかもしれないですけどね。このチケット会社からチケットの実券が変なショップに流れてしまったときにそれを回収することができるのか。ではイベントの入場チケットとは法的にはいったい何なのか。債権回収や倒産法とチケット販売契約の慣習や解釈という、独特の法領域にまたがる仕事になる。そんなこともやります。

――刑事事件を受任されることもあるのでしょうか。

福井:稀ですが、あります。「この作品は猥せつか」なんて問題もありますし、例えば、映画監督が撮影期間中にお酒のうえで喧嘩をして勾留をされてしまった場合。このときは刑事事件として受けます。「この人がいないと映画ができないんです」というような話をして釈放を求める、なんていうことも有り得る訳です。

――芸術文化という切り口から、幅広い業務に携わっているということですね。

福井:そうですね。いろいろな文化活動をすれば、いろいろな問題にぶつかります。それは何でも解決しなければなりません。ただ比重からいくと、とにかく著作権と契約が多いのは間違いない。そこで、なんとなく著作権の専門家みたいなふうに見られるようになった、というのが正しいのかも知れません。

――クライアントには、アーティストと、アーティストを使って利益を上げる会社と、その両方がいるのでしょうか。

福井:うん、いるんですよ。個人アーティストの依頼もありますが、むしろ、出版社・映画会社・レコードレーベル、それから劇団・芸能プロダクションが多いですね。今言ったような会社や個人を僕は広く「プロデューサー」と呼びます。プロデューサーサイドとアーティストサイドは、どちらもクライアントにいます。個人アーティストも代理したり助けたりはするけれども、2割位でしょうか。


「For the Arts」という理念

――骨董通り法律事務所の掲げている「For the Arts」という旗印は、どのような理念を表しているのでしょうか。

福井:僕たちは、法律のために社会が存在するのではなく、社会のために法律が存在するのだと思っています。ところが法律家は、ややもすると法律からものを考え始めてしまいます。例えば、現場の人の話を聞いて「それは民法の典型契約のどれに当たるか」と考える。現場でやっていることこそ「典型契約」なのだから、これはスタートとゴールを履き違えている気がする。

著作権の議論でもそのことはみられます。まるで、著作権を守ることや強化すること自体が社会的価値であるかのように活動する法律家や業界の関係者は多い。けれども、著作権という法律はツールに過ぎず、本当は目的となる社会的価値があるはずですよね。僕は、芸術文化が豊かで多様にいきづく社会のために活動する法律家になりたかった。ということで「For the Arts」という言い方をしています。

その意味で、先ほどプロデューサーとアーティストの両方を代理しますと言ったけれども、ある特定のポジションの人のために働くというよりは、「芸術文化」のために活動したいと思います。日本では使い捨てのようにされるプロデューサーも少なくありません。良い芸術や文化というのは、資金を集めて、作品の制作を先導し、読者や観客と作品を結び付けられるプロデューサーの存在なしには成立しないんですね。
プロデューサーも、アーティストも、それから観客も、皆がいないと芸術文化はいきいきと輝きません。そんな豊かな社会のために活動したいと思います。


< 前のページへ | トップへ | 次のページへ >