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――森・濱田松本法律事務所では、法律業務以外に種々の公益活動への参画を積極的に推進しておられますが、その理由をお聞かせください。また、具体的に行っておられる公益活動の内容についてもお聞かせください。

松村:公益活動の重視は、事務所の理念のひとつでもあるのですが、それは先ほど申し上げたように弁護士一人一人の共通の志のあらわれであると考えます。弁護士は、それぞれこのような弁護士になりたいという志を持って仕事をしていくわけですが、その志の中身は多種多様です。弁護士という職業は、資本主義の単なる1プレーヤーではなく、特別の役割が期待されているのだと考えています。国との関係で考えると、国から監督を受けない自治が認められています。市民という立場から自由や人権というものを擁護し考えていくという役割があるからです。我々は、普段の業務においても、クライアントの経済的自由権を中心とする各種人権を守っているという意識で仕事をしていますが、社会正義の実現というものは、業務に関わるものであると否とを問わず、弁護士の共通の志として共有されているものであると思います。このような理由から、我々の事務所は積極的に公益活動に携わっています。
 公益活動の具体的な内容として、ひとつには弁護士会の活動への積極的な参加、というものがあります。我々の事務所は、過去に日弁連の会長をはじめ、各弁護士会の会長、法テラスの事務局長といった弁護士会関係の役職に人材を輩出しています。弁護士会以外では、最高裁判事に就任した弁護士もいます。若手も、刑事事件の当番弁護や国選弁護、クレジット・サラ金の無料法律相談等についても積極的に参加していますし、子どもの権利や外国人の人権に関する委員会、環境に関する委員会などといったものに関与し、社会の基盤作りというか、我々のノウハウや知識、リソースというものを社会に還元していくという活動も行っています。さらに、司法研修所や各ロースクールに教員を派遣し、後進の育成に貢献するということも、多くの弁護士が積極的に行っている公益活動の一つです。

――では、各弁護士の専門についてお話をお聞きしたいと思います。
各弁護士の専門分野は、どのように決まっていくものなのでしょうか。また、各業務分野での交流はどの程度あるのでしょうか。

青山:専門分野は、事務所があなたはこれをやりなさいと決めてかかってやってもらうものではなく、いろいろな仕事を経ていくなかで、「運と縁」もありながら、徐々に決まっていきます。この過程には、意図して特定の分野に取り組んで専門性を高めていくこともあれば、たまたま取り組んでいた案件が非常に面白くて深く仕事に打ち込んだところ、そのときの実績から同じ分野の案件がまた回ってきて、次第にその分野のプロフェッショナルになっていったということもあります。このように、自分の意図半分、運と縁半分、といった形で自分の分野が決まっていきます。
 ちなみに、私は、今はファイナンスを専門にしているのですが、過去はいろいろな分野の経験をしたいということもあり、M&Aやコーポレートといった分野もやっていたことがありました。そして、ある程度時間が経った時に、自分はファイナンスをやろうということを決断しました。このように、いろいろな経験を積み重ねていくなかで、分野それぞれの特徴や、自分の肌に合うかといったことが分かってきて、徐々に方向性が決まってくるということだと思います。

――入所したときや採用されたときに、もうすでに専門分野が決まっているというのではなくて、経験を積んでいくなかで決めていくというものなのですね。

青山:そうですね。企業法務と一言で言っても、本当に色々なことをやっていますから、一人の弁護士が全ての分野で第一線の専門家であるということはなかなか難しいわけです。従って、ある程度どこかの分野にフォーカスしていくということはいずれ必要になるわけですが、だからといって、初めから専門を1つに絞らなければならないというわけではありません。もちろん、全くのノーアイデアというのではなく、どういった仕事に興味があるかというイメージくらいは念頭に置いて入所してもらいたいと思いますけれど、それ以上何か決めて入所しなければならないというわけではなく、事務所のなかで経験を積んで、自分の意思と、周りの環境とで徐々に決めていけばよいと思います。

松村:我々の理念のひとつとして、「バランス感覚を持った人材の育成」を掲げているということをお話しました。人材育成の方法としては、マニュアルがあって、それに従って専門分野を決めていくというものではありません。各弁護士にメニューを見せて、そのなかから、それぞれの置かれた状況や、個性、志向等を考慮しつつ、先輩弁護士と相談しながら専門分野を選択してもらうようなシステムを採っています。
 もちろん、新人のなかには、企業や銀行でのファイナンスの実務経験があるという人もいれば、知的財産権について深い知識を修得した上で入所してくる人もいます。このようなバックグラウンドで最初から目標を持って入ってくる人もいるのです。
 私自身は、業務分野についてあまりよく理解できていない状況のまま事務所に入ってきました。M&Aとは一体何なのかわからないし見たこともないという状態だったのですが、実際仕事をやっていくなかで、なんておもしろいんだ、ということに気付いていったのです。人によっては、たまたま先輩に一緒にやらないかと誘われて関与した案件が、実は日本で誰も考えたことがない案件だったということで、結果としてその分野の専門家と呼ばれることになったりもしています。自分がこれを専門にしようという明確な意識がなくても、その案件に一生懸命取り組み、それがたまたま誰も取り組んだことがない案件だったりすると、結果的にその分野について日本で一番詳しい専門の弁護士ということになるのです。
 狙って専門分野を作るという進取の精神や、この分野で日本一になってやろう、この分野で自分は誰にも負けないという気概ももちろん大事です。しかし、どれほど強い気持ちを持っていたとしても、その時代その場所で、そのような分野の案件が存在しなかったら実務としては何にもならないわけです。クライアントが依頼してきた案件のなかで獲得した知識や経験によって自らの専門が作られていくということもあり、そう考えると、専門が決まっていく過程というのは、ある意味、いろいろな要素の組み合わせのように思います。その人の置かれた状況や志向によって、専門がそれぞれ決まっていくのです。ひとつだけ誤解してほしくないのは、「専門」というと、言葉上いかにもその分野「だけ」をやるという印象もあると思うのですが、実はそうではないということです。若手の弁護士も、我々のような中堅の弁護士も、年配の弁護士も、それぞれいろいろな分野を日頃扱っています。私も、渉外的な訴訟、ファイナンス、刑事弁護等も現に業務として取り扱っていますが、そういったなか、M&Aの案件、特に上場会社の公開買付け、つまりTOBを必要とする案件や、金融機関のM&A、それから、クロスボーダーの案件等については、業界のなかでも一応それなりに頼りにしてもらっているのではないか、というような自負もあります。ですから、「専門」というのは、それを「専ら」やっているということではなくて、その分野が得意で、その分野においてはだれにも負けないという気持ちを持っているということなのではないかと思います。