homeronbunhyosyakukikakutoukouabout

対談・インタビュー

Legal Professionals

臨床法学教育特集

分配可能額計算システム



2.業務分野等について

(1)M&Aについて

――M&Aの過程には、大別して(1)プランニング、(2)デュー・ディリジェンス注2 、(3)ドキュメンテーション、(4)ネゴシエーション等があると思いますが、法律事務所の弁護士がこれらの過程にどのように関与していくのでしょうか。

松村:M&Aには、今おっしゃった4つの局面に加えて、あと2つくらいの局面があると思っています。 1つはディスピュート・リゾリューション注3 です。M&A取引を行った後、その取引を巡って裁判や紛争が生じることがありますが、そうなった場合の紛争解決まで含めてM&Aの過程と見ることができると思っています。
 それから、エグゼキューションと私が呼んでいる局面があります。たとえば、許認可を得たり、公開買付けについて届出書を作って役所と折衝したり、合併であれば株主総会の開催準備をしたりといったプロセスハンドリングのような局面においても弁護士が重要な役割を果たすのだと考えています。

 それぞれの局面で、弁護士がどう関与するかについてですが、まず、プランニングもしくはストラクチャリングの場面では法律の知識そのものが生きてきます。たとえば、ある会社が他の上場会社の株式を50%買いたいと相談にきたとしましょう。その上場会社には50%の株式を持っている大株主がいて、その大株主から株式を買いたいというケースです。この場合、法律を知らない人だったら50%の上場株式を売買契約で買ってくればいいのだから、売買契約書を作成すれば足りると考えるかもしれません。しかし、法律では公開買付規制というのがあって、あえて単純化していうと、3分の1以上の議決権を得るような、そういう取引をするようなときには公開買付け注4 という手続を踏まなくてはいけません注5 。そうすると、上場会社の株式50%の売買契約というのは違法な契約になってしまうわけですから、それ(50%以上の取得)を実現するためには公開買付けという手段をとったらいかがでしょうか、というようなアドバイスになるのです。もちろん、実際にはこんな単純な依頼はないわけですが。
 また、現金を使うと大変なので株式を対価として使いたいという要望が会社側から出された場合であれば、どうでしょうか。エクスチェンジオファー注6 などといった制度もありますが、現実には公開買付けは現金でほとんど行われているので、TOB以外の手法で考えますと、自分の子会社あるいは自分自身と対象になっている会社とを合併させるという方法が考えられます。たとえば、自分たちの会社が存続会社、買収しようとしている相手会社を消滅会社として、消滅会社の現株主に対しては、存続会社の株式を対価として与えるというような方法です。

 クライアントが何をやりたいかということをよく聞いて、それを実現するためにはどのような解決方法があるのか、法律や判例、あるいは過去の経験に基づく知恵や知識を総動員しながらアドバイスしていくというのがプランニングです。プランニングにおいて、話の発端は、こちらからこういうのはどうでしょうか、こういうのをやったらどうでしょうかということを常に持ちかける、というわけではありません。クライアントの方がこういうことをやりたいのですと漠然としたものを持っている、あるいはもう具体的にこういうような取引を考えていますと相談を持ってくるのです。それに対して、我々は、この取引だとこういうふうに行った方がいいのではないでしょうかと指摘したり、これだと法的リスクがありますよと指摘します。また、法的リスクが明白な場合は、別の方法があるのではないでしょうかといった提案をします。そのような役割を果たすのがプランニングあるいはストラクチャリングといわれている局面です。

 次に、デュー・ディリジェンスというのは、会社にどのようなリーガルリスクがあるのかということを発見する作業です。会社の人にインタビューをしたり、会社の資料、契約書、議事録といったものを精査したりして、法的な論点が潜んでいないかをチェックしていきます。具体的には、違法なことをしていないか、法的なリスクになるような、たとえば訴訟になるようなことは起きていないか、業務停止となるような原因はないかといったようなことをチェックしていきます。

 ドキュメンテーションですが、これは契約書を作成していくということですね。我々は契約書の起案手法に関する広いノウハウを持っていますから、一つの条文を作るにしても、こういう条項にすれば、よりクライアントの利益を守ることができるだろうなどと考えながら作成していきます。2、3頁の短い契約もありますし、500頁というような長い契約もありますが、契約の長短にかかわらず、どういうポイントを指摘し、どういう文言を使えばクライアントにとって最善の結果になるだろうかということを考えて作成します。場合によっては、依頼者が求める目標を達成するためには、作成や検討を依頼された契約だけでなく、別の契約も必要ですねといって新しい条項や契約を起案することもあります。これがドキュメンテーションの局面での弁護士の役割です。

 最後に、ネゴシエーション(交渉)です。交渉については皆さんなかなかイメージがわかないと思うのですが、私自身は、これが一番魅力的な業務だと思っています。交渉というのは、必ずしも弁護士が担当する必要があるわけではありません。当事者のトップ同士で交渉をすることもありますし、フィナンシャルアドバイザーが前面に立って交渉をすることもあります。ただ、契約交渉ということですから、様々な法的論点についてどういう条件を契約のなかで勝ち取っていくのか、どういう契約文言にするのか、どういう契約を必要とするのかといったようなことについての交渉が主であり、それらに関しては、弁護士が中心となって行うべき、ということになります。もっとも、弁護士だけでできるものではないので、大きな交渉ではクライアントの担当者やアドバイザーを含め50人とか60人とかのチーム全員で議論をし、まとめあげたものを持って相手方との交渉に臨むこともあるのです。このような交渉では弁護士がチーム代表としてチームの意見を主張します。たとえば、相手方の提示してきた条件やそのなかの理念、あるいはある問題点について、お受けできない旨述べたり、それらの代わりに別のアイディアを提案する旨述べ、そのためにはこういう文言を入れたいと思いますとスピーチしたりするわけです。
 これに対して、今度は相手方のチームがどの部分を譲歩できるか、どのように反論するかを判断しなければなりませんから、別室などで再度議論を行います。会計・財務の観点や企画・営業の観点から意見を聞きつつ、会社の意向はどうなのかを議論します。そして、当該条件を受容すると対象会社の価値が大幅に変わってしまうという場合であれば、その旨主張して買収価格の方に反映させるべきだとか、この条項をこういう風に変えなくてはならないだといった作戦を立て、またそれを交渉のテーブルに持ち帰って逆提案をします、という形で主張していきます。これは典型的な大型交渉における弁護士の役割です。
 ただ、交渉といっても、相手方代理人に電話をかけて文言の変更の提案をしたら相手方が承諾したということで、1、2分で終わるという簡単なものから、1年かけて、毎回徹夜をして、交渉するということもあります。特に海外との交渉は激しいものになることが多いです。言葉と文化の壁といいますか、日本人とだったら、契約書に書いてあることは大体こういう意味ですよねということでそれを飲んだりしますが、外国人との場合は、契約文言の意味や表現を厳格かつ正確に表現することによって、言葉の壁や文化の違いをカバーすることになるから、というのがその理由だと思います。以上がネゴシエーション(交渉)の局面です。

 そのほか、M&Aがうまくいかない場合は紛争になるため、そのときに、法廷もしくは法廷外の場で紛争解決を行うといったことが、ディスピュート・リゾリューションです。また、先ほど申しましたが、エグゼキューションとして許認可を得たり、届出書の書面を作成したりすることもありますし、M&Aのやり方やその影響などに金融庁等の関係官庁が懸念を抱いている場合であれば、金融庁や公正取引委員会などの当局と折衝するということもありますので、そういう場面でも弁護士が活躍することになります。

 話が長くなってしまいましたが、こういったM&Aの一連の流れのなか、いろいろな局面で弁護士が活躍する機会があるのだということを理解していただければと思います。


注2 企業買収の意思決定及び契約書作成等の上で考慮すべき被買収企業の様々な問題点を法的観点から検討すること。
注3 紛争解決のこと。
注4 株券等の発行会社または第三者が、不特定かつ多数の人に対して、公告等により買付期間・買付数量・買付価格等を提示し、株券等の買付けの申込みまたは売付けの申込みの勧誘を行い、市場外で株券等の買付けを行うことをいう。
注5 金融商品取引法27条の2第1項2号参照。
注6 TOBにおいて、株式等を対価として用いる方法。