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――M&A業務では、チームを組んで臨まれているとおっしゃいましたが、大企業の場合はインハウスロイヤーを擁している企業も多くあると思います。インハウスロイヤーとの協力関係というのはどのようになされているのでしょうか。

松村:M&Aの推進チームには、社外の人間として、フィナンシャルアドバイザーの方々、会計士や税理士、弁護士などの専門家が加わることが多いですが、それ以外に会社内のチームというものもあります。社内のチームには、社長以下を始めとする経営企画のメンバー、財務面からの検討をする経理や財務のメンバー、法務のメンバーなどがあります。
 大きな会社では法務部員の方々が何百人もいるところもあって、そのなかに弁護士がいることもありますが、彼らとは会社内のチームの中でも一番密に協力しあいながら、契約の文言をどのようにするかとか、法律的な問題をどのように解決するかといったことにつき、相談しながら一緒に進めていくという形をとっています。

――インハウスロイヤーだけでM&Aをやってしまうというケースもあるのでしょうか。

松村:あります。契約もできれば交渉もできるという方々もいますから。インハウスロイヤーの方々は、会社が抱えている問題だとか、会社の業務だとか、会社が特に気をつけなければならない法律問題や役所との関係だとかいったものに関しては我々よりも詳しいのです。そういう点で、案件においても我々外部の弁護士が、インハウスの彼らに頼る場面も多々あります。
 一方で、私自身もかなりの時間をM&Aに割いてきましたから、そういう意味では、会社の方々が経験していないことを知っている場合もあります。そういう観点で我々外部の弁護士に頼っていただいているという側面もあると思います。お互い頼りあって、補完しあいながら進めていくのです。

――M&Aの契約が終了し、クロージング後の段階において、弁護士が関与することはあるのでしょうか。また、関与するとしたら、どのような態様になるのでしょうか。

松村:ありますね。PMI、ポストマージャーインテグレーション注7 、という言葉を聞いたことがあるでしょうか。合併や統合がクローズした後に、どうやってそれを維持し、シナジーを出していくのかという点が非常に重要なのです。リーガルの観点からは、基本的にはディールがクローズすれば、いったんはクローズに向けた法律的論点は解決するのですが、M&A全体としてみると、ディールクローズした後にも課題は山積しているのです。買収前には、買い手は、売り手や対象会社のことをよく分からない。対して、売り手は対象会社のことはよく知っている。そういった情報の非対称性があるのですが、実際に買収した後に、買い手がその情報を全部知ることになるわけで、蓋を開けたら全然違っていたとかそういったトラブルが起き得るわけなのです。完璧に情報を共有することは不可能なのです。契約交渉時にはトラブルを予想して、様々な条件や条項を規定するのですが、実際にトラブルが生じると、それらの契約の解釈が問題になるのです。ポストマージャーの局面では、シナジーをどうするかという前向きのこととは全く別の、むしろ後ろ向きの、要するに紛争をどのように解決するかという形での対応が多くなるのですが、ポストマージャーでも弁護士が関与する場面というのは結構あります。先ほど申し上げた区分のなかでは、ディスピュート・リゾリューションといいますか、訴訟や紛争解決の場面で弁護士が関わり、それを解決するためにさらにまた新しいネゴシエーション、ドキュメンテーション行うという、そのような循環になってくるということです。

(2)コーポレートガバナンスについて

――松村先生は、コーポレートガバナンスを関連取扱業務とされておりますが、実際に、弁護士はどのようにコーポレートガバナンスに関与していくのでしょうか。

松村:一番典型的なものは、株主総会や取締役会が適法に運営されるためのアドバイスをするというものです。
 たとえば、株主総会の開催にあたっては、議案を作成したり、上場会社の場合には招集通知の参考書類規則を作成したりするのですが、それらの適法性についてアドバイスするというのが典型的な業務です。また、仮に総会で質問が出たときにどのような回答をするのがよいのかをアドバイスすることもあります。質問に対する回答は、答えすぎると営業秘密の漏洩ということにもなるかもしれませんし、逆に、答えが不足していると説明義務違反ということになり、後から取消訴訟を提起されるというリスクもあります。その辺りのバランスをとりながら、どこまで回答すべきなのかをアドバイスします。
 総会に向けてのアドバイスは、IR型注8 総会を考えているのか、非常に事務的な総会を考えているのかといった、総会に対する会社の方針を踏まえながら、その在り方についてアドバイスしていくことになります。
 取締役会の場合はもう少し生々しい話があります。場合によっては役員同士の権力闘争みたいなものがあったり、ジョイントベンチャー注9 の場合は、親会社同士の闘争の代理戦争が取締役会で起きるという場合もあります。そのような場合、当該取締役がいないところで決議されたり、取締役解任の決議がなされたり、いろいろな事態が起き得ます。これらの事態について後から違法だとチャレンジされたときにその適法性を主張していくこともあれば、チャレンジされないようにきちんとプロセスを踏みましょうといったアドバイスをすることもあります。こういったアドバイスも、コーポレートガバナンスという切り口からの弁護士の重要な役割のひとつになっています。

――日本振興銀行事件注10 を契機に、社外取締役についてのあり方が改めてクローズアップされることと思いますが、このことと関連して、弁護士が社外取締役・顧問弁護士・監査役それぞれに就任することの意義・期待される役割について、考えをお聞かせください。

松村:これは、私がアメリカに留学しているときに研究したテーマのひとつでもあります。取締役会はどのような構成であるべきかという問題なのですが、アメリカのボードメンバーはほとんどが社外取締役ですね。対して、日本は、業務執行者すなわち経営陣が取締役を兼務している場合が非常に多く、社外取締役がいないというような会社も、これまでは少なくありませんでした。上場企業においては、東京証券取引所など証券取引所の規則として、第三者割当増資をして25%以上希釈化するような株式発行をするような場合には、対象会社で特別委員会を作って、そこで適法だという意見をもらいなさいとか、あるいは敵対的買収がある場面など、防衛のための対抗策を発動するときには、特別委員会を作って、そこの意見を聞きなさいというものがあります。このような特別委員会がどのようなメンバーで構成されるか。日本の場合には社外取締役が少ないので、著名な学者や会社経営者、会計士や弁護士を構成員にするのです。しかし、その学者も、外部の有名な経営者も、その会社のことなんてよくわからないですよね。その会社のことをわからないと、その会社の価値の最大化を図るかどうか検討することはなかなか難しいですよね。
 そういった観点からすると、日頃から会社のボードに出席し、会社に関する情報を持っているものの、経営からは一歩離れた所にいる社外取締役とか社外監査役の役割は非常に重要になります。特別委員会のメンバーとしては、社外取締役といった会社内部に精通した立場の人が期待されるのです。

 アメリカでは、判例法上、利益相反取引がある場合などにおいて、会社がスペシャルコミッティー(特別委員会)を設置すれば、証明責任が転換され、取引の違法を主張する側に立証責任が移るといった制度になっています。逆に特別委員会を設置しなかった場合には、会社側に適法性を立証しなければいけないということになるわけです。アメリカでは、特別委員会を作っているといっても、ほとんどのケースではボードの社外取締役がメンバーになっているのです。そういった意味では、今後社外取締役が果たす役割というのはますます重くなっていくでしょうし、弁護士が社外取締役に就任して、有事の場合に法律的なバックグラウンドをベースに特別委員会に加わっていくような機会も増えるのではないかと思います。
 ただ、取締役の就任には個人的なリスクが伴います。取締役というのはいくら社外取締役とはいえ、善管注意義務を負い、利益相反取引の規制がかかり、株主代表訴訟の対象になります。そういった環境にあるので、弁護士が社外取締役に就任することに対しては、慎重な考慮を要すると思っています。

 もっとも、今の流れを見る限り、弁護士が社外取締役に就任するというケースは、これから非常に増えると思います。弁護士としての役割に期待があるという一方で、その重責も理解した上で、就任する必要があるだろうと考えています。


注7 合併後の統合化作業のこと。経営資源からオペレーション等を統合していく作業。M&Aを検討する際に試算したシナジーを得る上で、最重要な作業とされる。
注8 インベスター・リレーションズ。投資家や株主の企業に対する理解度を深めるため、株式を公開する企業が投資に必要な情報を投資家や株主に提供する活動のこと。
注9 複数の事業者が共同計算により損益を分担して共同事業を営むことまたはそのために結された共同事業体。
注10 日本振興銀行の前会長ら同行経営幹部が銀行法違反で逮捕された事件。社外取締役に弁護士や会計士出身者が配置されていたが、実質は会長のワンマンであり、十分な監視ができていなかったとして社外取締役の責任を問う声もある。