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――弁護士が経営に関しての法的リスクについて相談されたとして、そのリスクが100%起きるとは限らなくて、たとえば発生可能性5%のリスクがあることがわかったときは、経営者にどのようなアドバイスをされるのでしょうか。

松村:非常にいい質問だと思います。要は、我々弁護士が何を期待されているかということだと思うのです。社外取締役に就任しているのであれば経営判断も期待されることと思いますので、弁護士として法律的にはこう思いますというだけでは許されない場合もある。その場合、社外取締役として決議に賛成することができるか、業務執行者の行為を止めるべきか、といった非常に高度な経営判断が期待されるのだと思います。しかし、社外取締役に就任しているわけではなく、あくまで外部の弁護士として相談を受けたのであれば、そこには純粋な法律判断しかないと思います。たとえば、「ここまでは違法で、ここまでは適法です。その間にはグレーゾーンがあります。」といってそれでおしまいという突き放したようなアドバイスがなされる場合もあります。これではクライアントのニーズに応えていないことになるかもしれません。場合によっては、そこの白黒のラインをはっきり分けることがニーズかもしれないのです。
 また、理論的にはここからは白で、ここからは黒で、ここはグレーとした上で、エンフォースメントの話として、実際に株主代表訴訟で訴えられるリスクがどのくらいあるかなどをアドバイスすることもあります。確かにこれをしたら黒ではないかもしれないけれども、これにはこういうリスクがあって具体的にはこういうハードルがありますよというところまで含めたアドバイスをすることはあると思います。さらには、会社のためだと思ったらやるべきです、とアドバイスする弁護士もいるかもしれません。ただ、私自身のスタンスとしては、弁護士は経営判断ではなく、法的分析を頼まれていると考えているので、判断の材料をできるだけ正確かつ十分に提供するところが弁護士のアドバイスの要で、それを踏まえてどういった経営判断をするかというのは、もちろん弁護士が相談に乗ることはあるとしても、最終的には依頼者がインフォームド・ディシジョンをする領域であると考えています。

―─経営判断に踏み込むか踏み込まないかは個人の考え方ということでしょうか。

松村:そうなりますね。ただ、社外取締役になった場合は、純粋に弁護士としてではなく経営者としての判断が求められるので、法律上こうなるというだけでは足りないことになると思います。

――それでは、事後的に相談を受けた場合において、これからどうしたらいいかと聞かれたら、どのようにアドバイスをされるのでしょうか。

松村:過去のことは変えられないので、発生したことを前提にどれだけ有利に戦えるかを考えます。刑事事件の場合、自白事件だとしたら、最大限情状を考慮してもらえるよう主張し、否認事件だとしたら、法律論や事実を争い、そこにスポットライトを当てるような主張をします。同じく、民事事件の場合でも、訴えられるなと思ったら、事実は変えられない以上、いまあるもののなかでどう有利に戦うか、これからどのような行動をした方がよいか、といった前向きなアドバイスをすることになるだろうと思います。

(3)ファイナンスについて

――青山先生はファイナンスを主要取扱業務とされていますが、ストラクチャードファイナンス注11 、バンキング及びキャピタルマーケッツ注12 において、具体的にどのように関わっていらっしゃるのでしょうか。

青山:大きな観点で申しますと、M&Aの世界と共通するところがありまして、プランニング、デュー・ディリジェンス、ドキュメンテーション、ネゴシエーションというのは、ファイナンスにもあてはまるところがあるのですね。クライアントからこういう取引がやりたいと、それについて一番有利な方法はなにかという相談が来た場合、まずプランニング・ストラクチャリングから始まる。どういった取引手法があり得るか、それぞれの手法について考えられるメリット・デメリット、リスクは何かを検討するということから始まり、それから、デュー・ディリジェンス、ドキュメンテーション、ネゴシエーションの経過をたどって案件が成就するという過程を経ることは、ファイナンス案件でもしばしばあてはまります。場合によって、ディスピュート・リゾリューションやエグゼキューションが必要になるという点も同じです。
 ただ、M&Aと異なるところもあります。たとえば、デュー・ディリジェンスを例に挙げますと、何をデュー・ディリジェンスするのかというのはファイナンスのそれぞれの手法によっても異なってきます。コーポレートファイナンスといって企業体の信用力を引き当てにする資金調達であれば、当該企業が引き当てとするに値する信用力を備えているかを調べるために当該企業のデュー・ディリジェンスをすることがあります。このようなものは、企業体を対象にデュー・ディリジェンスを行うという点では、M&Aの場面で行う対象会社のデュー・ディリジェンスと似たものがあると思います。これに対して、アセットファイナンスになると、企業の信用力を引き当てにするのではなく、たとえば、ある不動産やある債権のプールなどの特定の資産を引き当てにして投資家から資金を集めることができるか、という話になってきます。そうなると、アセットデュー・ディリジェンスをすることになります。具体的には、不動産の場合であれば、その不動産の所有権の来歴に問題はないか、担保権が設定されていないかを確認したり、建築基準法などの不動産関連法規を遵守しているか、賃貸借契約などの契約があればその契約内容はどうか、不動産を巡って紛争がないかを確認するといったことです。

 ドキュメンテーションやネゴシエーションも、ファイナンス業務の中核の一つです。たとえば、金銭消費貸借契約を締結してお金の貸し借りをするというときに、その契約一つだけとっても交渉ポイントを挙げれば切りがないことになります。資金使途はどのように制限されるのか、元本・金利の返済のタイミングはどう定めるか、お金を借りている期間中借り手が守らなければならない約束事は何か、借り手の業況をモニタリングするために貸し手はどういう情報を求めることができるか、借り手の業況がどうやら途中で怪しくなったような場合に期限の利益を喪失させるためにどういう条項を盛り込むか、逆に期限が到来する前に借り手の方で資金の余裕ができて途中で全額返済したくなったらどういう条件で返済することができることにするか、などなど、最も基本的な事項さえ挙げきれないほどの多岐のポイントにわたって交渉が必要になります。
 そして、そうした交渉結果を契約文言に落とし込んでいくのは、ドキュメンテーションのプロセスです。お金の流れが滞らないよう緻密に正確に、同時に、資金の受け手の資金ニーズを的確に満たしつつ資金の出し手の権利・利益もしっかりと確保されるような内容にすることを目指して、関係者が知恵を絞り細心の注意を払いながらドキュメントを作り上げていくことになります。そこでも、弁護士がドラフティングをコントロールする中心的な役割を担うことになります。また、ドキュメンテーションの対象になるのは契約書だけではありません。たとえば有価証券届出書や目論見書など投資家保護のための開示書類を作成する際にも、どういった情報をどの程度開示することが投資家保護の目的に資するか、関係者との折衝を踏まえて書類作成を行うのは弁護士の重要な業務です。


注11 証券化などの手法を用いて資金調達をする方法。仕組み金融。
注12 長期金融市場。