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対談・インタビュー

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――新人弁護士がファイナンスにかかわっていく場合は、どのような仕事を経て、専門性を高めていっているのでしょうか。

青山:一口にファイナンスといっても様々な案件があり、新人弁護士にとっては、比較的単純に感じられる仕組みの案件もあれば、複雑でイメージのつかみにくい仕組みの案件もあると思います。また、問題になる法律も、案件によって、民法や会社法など勉強したことのある法律であることもあれば、聞いたこともない法律が出てくることもありますし、そもそもどの法律が問題になるかを見極めること自体が難問であるという案件もあり、難易度は様々に感じられるはずです。そのような中、新人弁護士には、できるだけとっかかりがありそうな案件から次第に難しい案件まで含めて、どんどんチームに入って案件をこなしてもらうことになります。最初はできることに限界があると感じるかもしれませんが、自分で限界を決めてしまわないことも大事で、若い弁護士がチームの中で中心的な役割を果たすことは決して珍しくありません。たとえば、プランニング・ストラクチャリングの段階で若手弁護士からいいアイデアが出ることも大いにあるのですよ。様々な案件に入ってもらい、できるだけ多くの経験をしてもらう中で、特に興味を持って深く関与する分野があれば、その分野でさらに専門性を磨いていくというのが成長のプロセスだと思います。

(4)紛争回避の方法

――先生方は、交渉の段階では紛争が起きないように心がけていると思うのですが、先ほどから、コーポレートでもファイナンスでも、いろいろと交渉していく段階において契約の文言をこうしようというお話が何度も出てきています。先生方が契約の文言を作成されるにあたって、特に心がけていることや方法がありましたら教えてください。

松村:契約文言の作成、というのは、最も悩みの生じる場面のひとつでもあります。確かに予防という観点からすれば、契約文言は明確であるにこしたことはありません。しかしながら、交渉をまとめるという観点からすれば、現時点で紛争を顕在化させるようなことは避け、将来的に紛争が起きないことに賭けるという判断もあり得るわけです。M&Aの場合、交渉段階で、誰が見ても後に紛争になり得ないほど明確な契約文言で契約書を完成させることのはなかなか難しいのが現実です。M&Aでは、交渉段階で紛争が起きないようにするための考慮から、あえて解釈の余地を残す契約文言にするということもあります。それがポストマージャーの紛争が起きてしまう原因だとは思うのですが…。理想をいえば、将来的な紛争を予防するのも私たちの重要な仕事ですから、契約文言は明確にした方がいいのかもしれませんが、明確化を追及するあまりディール自体がなくなってしまったり、交渉段階で紛争が顕在化してしまったりするのでは本末転倒ですから、そういう観点から、いま紛争が起きることを避けるために、将来的な紛争予防を後退せざるを得ないということもあり得るわけです。

青山:同じことの繰り返しになりますが、理由がないのに二義を許す書き方だとか、曖昧な契約条項を盛り込んだりだとかはしないようにしますね。合意内容がはっきりしていて、全当事者がそれを正確に契約に落とし込むことを一致して求めているという局面では、当事者の合意内容どおり二義を許さない表現をすることに注力すればいいわけです。他方、当事者の利害が対立して契約文言を巡って綱引きになっている場合や、意見の不一致が顕在化してはいないけれども問題を突き詰めて詳細な規定を作ろうとすると当事者間でおり合いがつかなくなるような場合には、多少曖昧さが残っても当事者双方が合意できる文言で合意することもあるでしょう。要するに、ケースバイケースで対応することが重要ですね。

――企業法務の場合、将来の紛争をどのくらい想定し、どのような応対までしておけば、弁護過誤に問われず義務を全うしたといえるのでしょうか。

松村:クライアントに十分納得してもらうことが、義務を全うしたといえるために大切なことだと考えます。クライアントにきちんとリスクを説明した上で、この内容でいいですかと確認するのです。たとえば、交渉を全面的に任されている場合で、相手との交渉でどうしてもまとまらないからその文言を選択したところ、後から紛争が起きてしまい、クライアントからどうしてリスクヘッジできなかったのかと責任を問われるといった場合、予め、将来紛争が起きるリスクがある旨説明するとか、「甲は乙に対して何々の権利を有する」という内容でまとめた場合、現段階で「執行」について触れると交渉がまとまらないことから、とりあえずこの文言で落としておきましたと説明するといったことが大切なのです。我々にとって一番大切な仕事のひとつに、クライアントの説得や十分な説明というものがあります。このようにして、クライアントとの間できちんと信頼関係を構築することが重要だと思うのです。

青山:どのような取引にもリスクはつきもので、取引に伴う将来のトラブルの種をゼロにする方法は、その取引をしないという決断でもしない限り、ないわけです。全てのリスクシナリオに手当てを施した完璧な契約書を作るということも現実的な想定ではない。しかし、そういった中でも、現実的な対処として、どのようなリスクを想定し、どのような手当てを行うか、理由をしっかり説明できることが重要ではないでしょうか。弁護過誤というと大げさな問題のようですが、結局、弁護士が日々の業務の上で心がけることができるのは、全ての案件に誠実に全力投球することというようなごく当たり前の話に尽きるので、そのことは、企業法務の弁護士にとっても、そうでない弁護士にとっても、同様に当てはまることではないでしょうか。