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(12) 中村合同特許法律事務所


今回は、近年注目されその発展が期待される知的財産分野について、専門事務所として有名な中村合同特許法律事務所に訪問しました。
中村合同特許法律事務所の歴史は古く、その歴史は大正時代まで遡ります。当初から工業所有権の分野を専門とし、弁護士と弁理士が連携しながら、日本の技術発展を法の側面から長年支えてきた事務所です。
同事務所のパートナー弁護士であり今回お話を伺った吉田和彦先生は、弁護士と弁理士両方の資格を持ち、また海外ロースクールへの留学・現地の法律事務所での勤務経験を有する経験豊富な先生でいらっしゃいます。知的財産分野はもちろん他の分野においても幅広く活躍なさっている吉田先生に、ご自身の経験もふんだんに交えながら、知的財産分野の業務や特徴などについて詳しく語って頂きました。

−本日はお忙しい中インタビューに応じていただきまして、ありがとうございます。今回は、吉田先生に、特許法律事務所とはなんだろう、特許を専門に扱う弁護士とは、ということを中心にお話を聞かせていただければと考えております。どうぞよろしくお願いいたします。

【法律部門と特許・商標部門
・・・法律部門は知的財産の比重が大きいが法律事務所に変わりはない】

−さっそくですが、まずは中村合同特許法律事務所の業務の概要についてお聞かせいただけますでしょうか。

吉田:はい。中村合同は特許事務所と法律事務所がくっついたような事務所で、弁護士が18人、弁理士が約65人います。ですから事務所全体から考えると法律事務所として考えるのは若干違うのですが、純粋に弁護士の部門(法律部門)がどのような業務を行っているかということでお話しすると、基本的に訴訟とそれ以外のものがあって、それぞれについて知的財産とそれ以外のことについて業務を行っています。この事務所の法律部門が普通の事務所と違うのは知的財産の比重がかなり大きいということで、それ以外は普通の法律事務所と変わりがないといえます。特許部門と商標部門は、主として出願業務に従事しています。

−事務所のお名前からは、知的財産が御専門のように感じたのですが。

吉田:「もっぱら」という意味でいえば、そうではないです。知的財産以外のことも当然扱っております。ただ、一般の事務所と比べると、知的財産の比重が大きいという点では、専門的にやっているといっていいのではないかと思います。

【都会の大規模事務所でなくてもよいが・・・】

−特許業務を専門に扱う事務所は全国で30から50ということで数も少なく、東京大阪に集中しているように思われるのですが、やはり大都市以外では特許業務を専門的に扱うことは難しいのでしょうか。

吉田:少なくとも、客観的事実として、大都市以外で特許を専門的に扱っている事務所は少ないと言えると思います。おそらく、お客さんが少ないということが理由の一つにあげられますね。あとはやはり、数年前に特許訴訟については東京と大阪の地裁が専属管轄注1になり 、なかでも東京の比重が非常に大きいので東京で特許業務を扱うことはいろいろ便利であることは間違いないと思います。

−そうすると、クライアントさんが地方から東京にいらっしゃったり、先生方が東京から各地方に出張されたりということが多いのでしょうか。

吉田:そうですね。お客さんが地方から見えることはよくあります。お客さんのところに出張で行くのは特別の理由があるとき、つまり工場を見なければならないとか、動かせない物を見なければならないとか、そういう理由があるときです。

−ちなみに、お客さんは東京の方が多いのでしょうか。それとも全国からいらっしゃるのでしょうか?

吉田:そうですね、北海道や沖縄のお客さんもいらっしゃいますが、圧倒的に東京周辺のお客さんが多いのは間違いないですね。東京が経済の中心であるからでしょうけど。首都が移転したらどうなるのかと思いますけどね。そうすると、知財高裁注2がひょっとしたら移るかもしれないですが、それでも東京が多いことには変わりないでしょうね。

−特許業務の取り扱いについて、中村合同特許法律事務所のような大規模な事務所のほうが小規模事務所より有利ではないかと思うのですが、具体的に有利不利な点などがあれば教えていただけますか。

吉田:有利不利については何とも答えにくいし、実際に小規模な事務所で一人二人でやっておられて非常に優秀な方もいらっしゃるし、小規模な事務所だとできないということはないですね。ただ、産業財産権の裁判、特に特許権の場合が顕著ですが、実際に特許権侵害訴訟が起きたとするとそれに対して無効審判請求注3がなされたりその無効審判請求に対して訂正請求注4がされたりするなど、事件が広がっていくということがありえて、そうするとはっきり言えば人手がいるわけです。それに対象の特許の件数、製品や方法が増えるとかなり物理的に大変になるのでそれをひとりで全部カバーするのは難しいですね。そういう意味だと大規模な方がいいという面はかなりあると思います。

−そうすると、大規模事務所の方がいいというのは人数的なものが理由で、各先生方が各分野の専門に分かれているのでという理由ではないということでしょうか?

吉田:各弁護士がみんな一通りやりますので専門分野に分かれているということはあまりないですね。例えば比較的、商標とか不正競争を多く扱う弁護士はいますが、たまたまそういう依頼者を多く扱ってきたということです。

【知財事件は事務量も多い】

−先ほどのお話では、特許訴訟では人手がいるということですが、それは、先生ご自身が細かな調査をしたり、準備書面を作ったり、ということで弁護士さんの数が必要なのか、あるいは調査をしたり、書証や証拠を集めたりするにあたって、アシスタントするパラリーガルの方等が多くないと難しいというということなのでしょうか。

吉田:それは両方ありますね。
日本の法律事務所の秘書は一般的に非常に優秀で、資料の整理をはじめかなりのことをやっているのですよ。また、ちょっと話は逸れますけど、裁判で必要なコピーの枚数も大量なのです。知財の裁判というのはいろいろな過去の技術が問題になったりすることもあって、結構大量の証拠がいるのですね。不正競争の案件では、周知性注5を立証するために大量の証拠が必要になることがあり、たとえば証拠番号が500号証ということもあるのです。さらにその一個一個に枝番がついていたりしてものすごく多いこともあってね。特許の案件だと、例えば明細書の記載を引用するのも長くなるし、また、実際に議論をする部分も長いので、準備書面も結構長くなります。それらの資料は、裁判所に出す分と担当弁護士やお客さんに渡す分等を合わせると、十部以上同じものを作ることになるのが普通です。これらを正確に準備するのも大変です。その意味でも結構スタッフが必要ですよね。
また、たとえば訴訟の対象特許が5件あったら、弁護士1人で対応するというのはしんどいのではないでしょうかね。



注1 専属管轄
民事訴訟法6条参照。土地についての管轄は、本来被告の住所や請求の性質によって決定される(4条、5条)が、特許権等に関する訴えについては、それが東日本である場合には東京地方裁判所が、西日本である場合には大阪地方裁判所が第一審として排他的に管轄を有するとされている。


注2 知財高裁
知的財産高等裁判所。知的財産関連の訴訟の審理には技術的な知識が求められるので、そうした事件を一極的に扱うために、2005年東京高等裁判所の特別の支部として新設された。


注3 無効審判請求
特許法123条1項、2項参照。侵害者とされた側が、カウンターとして無効事由が存在することを主張する場合に用いられる。特許権の設定をしたのが特許庁長官であるにもかかわらず、請求の相手方は特許権者であるとされる。一度設定された特許権に関し、最も利害関係を有するのが特許権者であるからである。


注4 訂正請求
特許法134条の2第1項。同様の制度として、無効審判が係属していないときにされる訂正審判請求がある(特許法126条1項)。いずれも特許権の成立後に、その内容を変更するための手続。特許権の一部に無効事由などが存在する場合等に、その部分を削除して特許無効の主張を崩すため等に用いられる。補正と異なり、特許庁に出願が係属していない場合に可能である。


注5 周知性
不正競争防止法2条1項1号は、人の業務に係る氏名や商号、商標等が需要者の間に広く認識されている場合には、それらと同一もしくは類似した表示を使用して他人の商品や営業と混同させる行為を不正競争であるとしている。この場合に、問題となる表示が需要者の間に広く認識されているかどうかを問うのが周知性の要件である。


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