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<7> 株式会社レコフ


はじめに
 M&Aへの社会的注目は、近年高まるばかりです。メガバンク誕生へ向けての大型再編、 ドッグイヤーとも言われたIT企業における積極的なM&A戦略、そしてファンド主導での大量買付けの頻発。 昨年からは事業会社主導による敵対的TOBが、新聞の一面を連日賑わせました。 90年代後半からこのかた、日本経済において、M&Aが占める存在感は高まる一方といえます。
 このM&Aの実行に当たっては、様々な関係者・専門家との連携が必要となります。 買収資金の調達が必要な場合には、投資銀行や証券会社等がこれを行います。監査法人は、会計面での問題の洗い出しを担当します。 法律家は法的な問題点を抽出し、それを交渉過程および契約内容に反映させていく役割を担います。 そして関係者の協力を取り付け、専門家の意見をまとめあげつつ、大局的な視点から当事会社へ戦略的なアドバイスを提供するのが、いわゆるM&A助言会社です。 M&Aの分野において法律家が力を発揮していくためには、専門分野への知見を深めていくことと合わせ、 これら他の関係者や専門家との連携・協働を進めていくことが欠かせません。
 今回はM&A助言会社の一つであり、我が国において当該分野の草創期から提案・助言業務を展開してきた株式会社レコフを訪問しました。 様々な関係者および専門家とどのように協業・競争関係を築いているのか。助言会社の立場から法律家に期待することとは何か。 本記事を通じて、読者諸兄姉にM&A実務に対する理解を深めていただければ幸いです。

<目次>
1.株式会社レコフとM&A助言業務について
2.M&A業務における法律家の役割について
 (1)M&A実行時の法律業務について

 (2)弁護士事務所に対する評価、満足な面と不満な面について
 (3)弁護士事務所と企業法務部との役割分担について
3.ロースクール生へ一言


稲田 洋一
株式会社レコフ 主席執行役員
大手証券にて個人営業、人事企画業務、事業法人営業を担当後、1994年にレコフ入社。米国ダートマス大学経営学修士(MBA)。
梅本 建紀
株式会社レコフ チーフ・コンプライアンス・オフィサー
大手証券の引受部門に20年間在籍し、数多くの新規公開、国内外のファイナンスおよび国有企業の民営化などを担当。1999年レコフ入社。経済産業省「企業価値研究会」委員(2004年〜2007年)



――本日は訪問を受け入れて頂きありがとうございます。 今回は株式会社レコフ専務執行役員の稲田さん、および同社チーフ・コンプライアンス・オフィサーの梅本さんにご協力を頂きます。 どうぞよろしくお願いいたします。

稲田&梅本(以下、敬称略):よろしくお願いします。


1.株式会社レコフとM&A助言業務について

――それではまず、株式会社レコフ(以下、レコフ)について、簡単にご紹介をお願いできますか。

稲田: レコフはM&Aの助言会社です。1987年に現代表の吉田允昭が当社を設立しまして、現在は120名ほどの社員を擁しています。 日本におけるM&A分野の草創期から活動してきた、最も歴史のあるM&A助言会社の一つだといえます。 また、日本におけるM&A市場の定着と発展に資するべく、M&A専門誌MARRの編集・発行を行っています。

――ここで、一般的に使われているM&Aという用語についてご説明をお願いできますか。 語句自体からは企業買収・企業合併を指すのかと思いますが、事業譲渡なども含まれるのでしょうか。

梅本: M&Aというのは、既存の経営資源の活用を目的に企業や事業の支配権を移転させることをさすと理解しております。 経営参画につながる株式取得も含みますが、資産・負債の移転を伴わない単なる業務提携などは除外しています。 使われる法的スキームとしては、株式交換・移転、事業譲渡、会社分割などいろいろなものがあります。

――いずれかのスキームがよく使われる、というようなことはありますか?

稲田: 完全にケースバイケースですね。以前は、税法上未整備だった部分や三角合併の解禁が延期されたことで制約もありましたが、 今ではそのような障害がなくなったので、完全に自由です。

梅本: 会社法が施行されて、スキーム設計の幅は相当に広がりました。 いろんな種類株が出せるようになったし、M&Aのストラクチャーも自由度が高まっています。 この辺りの知識がきちんとないと戦えません。そういう意味では法的知識が重要ですね。 会社の値段を決めるには会計の知識が必要ですし、税法も重要です。 日本では税理士さんに任せてしまいますが、M&Aを理解している税理士さんは本当に少ない。 米国ではタックスローヤーの地位が一番高いですよね。 今後そういう弁護士さんが日本で育ってくるのかが、M&Aビジネスにおいても大きな課題ですね。

――法務、会計、税務の知識はどれも重要なんですね。

稲田: 今日、M&Aのディールのストラクチャリングを行うときには、会社法と会計と税務は完全に一体として検討せざるを得ません。 でも弁護士の先生に会計のことを聞いても、会計士の先生に会社法のことを聞いても、もう一方へ行って下さいって言われますね。 これらを一体として検討するというのが我々の業務になっているんですよ。それがM&A助言会社のバリューの一部になっています。

――そういった連携はスムーズに行くものですか?

稲田: 複雑で複雑でどうしようもないなっていう案件は、専門家が一堂に会して何度でもミーティングをやりますよ。 偉い先生たちを集めて喧々諤々やるんですが、これがものすごいコストになるんですよね。 でもそれだけコストをかけられるのは、それなりのサイズがあって、経済的な付加価値があって、コストを払えるディールですよね。
 例えば産業再生機構とダイエーの案件なんかは、徹底的にデューデリジェンス (注)をやったことで有名です。 この案件だけに数十億円、デューデリジェンス全体で100人以上を動員したっていう話ですよ。子会社の数が膨大ですからね。 でも、普通の事業会社はそんなにコストをかけられません。限られたリソースの中で最大限効果的なデューデリジェンスを目指すしかないわけです。 実務家っていうのは、そういうコスト・パフォーマンスがギリギリのところで勝負しているわけですね。

――どういった企業にとってM&Aは有効な選択肢になりうるのでしょう?

梅本: 一番わかりやすいのはマーケット側から見た場合で、例えば市場規模に比べて企業数が多すぎる場合です。 医薬品業界などはその典型ですね。そうすると当然、過当競争状態を解消するために、再編の必要性が生じてくるわけです。
 一方で、企業の側から見た場合に、M&Aが有効な経営戦略となりうることもあります。 例えば複数の事業部門を持つ企業について、事業ごとにバリュエーションを実施してみると、やはり強い部門と弱い部門がある。 そういうときに例えば、M&Aによって切り離すか強化するかという基準を設けて、一定の基準を下回った部門は他の企業に譲渡するといった区分けをすることもあります。 また、シナジー効果の薄い事業部門を抱えている場合に、これを外部へ売却する。 少し前の言葉でいえばコア事業への特化、経営資源の本業への集中戦略ですね。

――随分とシビアな判断が要求されるように思います。

稲田: その通りです。M&Aは、企業の事業戦略の根幹に関わる重要な意思決定ですから。




 会計及び法務上のリスク把握による適正評価手続。


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