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2、税務訴訟における変化

――前倒しの事件は後ほどお伺いするとして、まず、現在の業務の中心を占めている税務訴訟についてお伺いしたいと思います。前提として、税務訴訟をしている法律事務所はどれほどあるのでしょうか。

鳥飼:税務訴訟をまともにできる事務所ってそう多くないんですよね。たとえば東京地裁でやるときには、国税局に訟務官室ってあるんですよ。そこに訴訟を中心としてやる国税局が国税側の中核部隊、120人くらい専門官がいる、法律事務所がどこもかなわないくらい巨大な、税務訴訟の専門の法律事務所が向こうに設置されていて、そこと対等に戦わなきゃいけない。しかも、そこは四六時中それだけなのに対し、われわれはいろいろやってる中で税務訴訟の割合が高いだけだと。さらに、彼らは専門性がある上に、権限でいろんな証拠を集めてくる力がある。このような戦いの中で対等にやっていくためにはよほどの高い専門性を持った人たちを集団化しないといけないのだけど、そうすると本格的にやれる事務所っていうのは多くないんですよ。数えるぐらいしかない。

――一般に、租税訴訟で勝てる確率は低かったと聞いていますが、鳥飼総合法律事務所はずいぶん高いですよね。

鳥飼:2008年度は全国平均の勝訴率は14.2%ですかね。うちはね8事件中、7件勝訴だったんですよ。従来の常識からすれば、奇跡ですね。

――一般には、そうそう勝てるものじゃないのですね。

鳥飼:そうですね。納税者の権利を侵害するのが許せんという、そういう正義感がないとね、税務訴訟はできない。ただ勝つだけがいいという発想だとね、続かないですよ。国家と対峙してやるわけだから。こちらに、敗訴しても前向きに捉えて耐えるという忍耐力もないといけないよね。

――一般の数字と比較して、鳥飼総合法律事務所は相当に高い数字となっていますが、この数字が高くなったのにはどのような理由があるのでしょうか。

鳥飼:それは、裁判所の考え方が変わってきたというのがあるでしょうね。従来であれば、裁判所は官僚がつくりあげてきた法秩序を確認するだけで、一つ一つの個別的な事案にあてはめて個別的な解決を中心としてやってきた。行政官中心にやってる実務がやや法律からずれていようが、それが実務として、法秩序となっていた。裁判所もその法秩序を確認して、あまりにも弊害が大きい場合を除き、原則としてそれにそって解決してきた。

――官僚がつくりあげてきた法秩序というのはどのようなものだったのでしょうか。

鳥飼:従来の法秩序の基本的な価値観は産業重視だったわけですよ。民法の基本的な考えからすると、平等な人格の自由な契約によって社会が成り立っているでしょうと。大企業と一市民が法的紛争を起こして一市民が損害受けたから賠償しろというとき、自分で証拠集めてちゃんと立証しろということになる。集めてこいったって証拠のほとんどは企業の中にある。その上、従来は裁判所は証拠の収集にそれほど協力的ではありません。こうなれば、企業、産業が守られ、そのほうが国益にあうというのが行政官の基本的な考え方だったわけですよ。
 納税者は負け、普通の会社法関係の訴訟でも、投資家とか消費者が負けることになるのです。あるいは弁護士になるとわかるけど、PL訴訟とかは証拠が企業側にあるもんだから、証拠を集めてこれない。だから、訴訟ではなく、ADRに頼らざるをえない。

――それが変わってきたと。

鳥飼:平成16年くらいからですね。なぜかというと、日本社会も世界経済の中の一部だと海外でも思われるようになり、グローバルになってきたから。行政官の裁量によっていくらでも結論が変わるのでは、他の国から考えると予測可能性が立たない。初めから法律をルールとして理解して、それに基づくとこういう結果になるはずだというのを認めてもらわないと安心して経済行為できませんよと。そういう話から消費者とか投資家を重視する市場主義的な発想が裁判所に出てきて行政官の中にも出てきて。そこで、事前規制から事後的に法律を基準に悪い奴だけ鉄槌をくだすという司法重視の考え方になってきた。

――いまおっしゃった話は税務訴訟以外ではいかがでしょうか。

鳥飼:消費者契約法なんかは今までの常識を変えましたよね。たとえばこの前、大阪高裁で更新料に関する条項は無効だという判決が出た。更新料なんて一種の慣習法じゃないかと思うくらいだったのに消費者契約だと無効になっちゃう。それを今度は民法の債権法改正の中で根本原則に入れようって発想をしてるのは、意図はしていないようですが、それは法秩序の基本的価値観を変える意味で、革命を起こそうとしてると同視できる。消費者契約法の考え方を実質的な衡平っていうことを前提として裁判制度を起こそうというのが民法改正の思想の根底にある。平成16年くらいから司法が反乱起こしてきていて今までの裁量行政を許さんと行政裁量に絞りをかけていて司法が怖がらないという形で法治主義を貫徹し始めたんじゃないかな。

――この流れはこれからも続くとお考えですか?

鳥飼:まだまだ序の口だよ。他にも、グレーゾーン金利の最高裁判決。従来であれば、裁判所は社会的影響や経済的影響が大きいことはやらなかったのが、消費者金融の多くが大金融機関の傘下に入らないと資金繰りが立たなくてやっていけないくらい、それぐらい産業構造を変えちゃった。従来の裁判所では考えられなかった。司法機能の強化を最高裁が考え始めたんだよね。法律を基本とした秩序を考えて、実態が違ったら実態を直すんだよ。更新料の判決もそうだし、法律通りになってくると今までの常識がひっくりかえることが出てきている。