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早稲田ロースクールと臨床法学教育
―実務改革の先導者の登場を期待して―


早稲田大学大学院法務研究科教授 宮川 成雄


 「見習うのではなく、法曹のあり方を自ら批判し改革すること」。これが、従来の法曹教育と臨床法学教育(clinical legal education)の根本的に異なるところである。このように指摘したのは、今日のアメリカの臨床法学教育の隆盛をもたらした中心人物であるハーバード・ロースクールのギャリー・ベロー(Gary Bellow)元教授である。彼はまた、“lawyering”という語を造語し、これを学問研究の対象として実践した人物でもある。法律家としての活動のあり方を検討し、継続的な自己改革の契機を法曹教育に組み込むこと。これが早稲田ロースクールの臨床法学教育の目指すところである。
 早稲田ロースクールでは、民事刑事のクリニックをはじめとする現実の依頼人に法律サービスを提供する学内クリニックだけでなく、現実の事例に素材をとる国際契約交渉などのシミュレーション授業、また、法律事務所や企業法務部への学生派遣によるエクスターンシップという臨床法学教育の3形態全てを実施している。これらアメリカ・モデルの臨床法学教育を、日本で実施するについては、司法修習制度との関係、学生実務規則の未整備といったさまざまな検討課題が横たわっている。しかし、現時点での最大の課題は、教育段階にある学生が現実の依頼人に法律サービスを提供することへの、社会的理解と信頼を獲得することである。
 早稲田大学は2002年に臨床法学教育研究所を設立し、日本でこの分野をリードしてきた。この教育方法論に早稲田がいち早く取り組んできたことは、決して偶然ではない。困難に怯まず新しい挑戦に立ち向かう進取の気風と、市井の個人の視点で学問とその実践を行う在野精神という早稲田の伝統があってこそ、これまでになかった新しい教育方法を採用し、法律サービスの行き届かなかった依頼人層を対象とした臨床法学教育のカリキュラムを実現できたといえる。
 法科大学院の設立により、大学は初めて実務法曹の教育という役割を正面から担うことになった。法科大学院での教育は、法学理論の教授だけではなく、法曹としての実務技能の修練と価値観の涵養を行わなければならない。臨床法学教育はこの役割に応える重要な方法論である。早稲田ロースクールの臨床法学教育を経験した者が、実務改革を先導する役割を担って、臨床法学教育の社会的理解と支持を広げてゆくことを期待する。