双日株式会社

1 企業の法務部とは、商社の法務部とは

――本日は訪問を受け入れていただきありがとうございます。 今回は法務部の花井正志部長、菅沼博文アシスタントマネージャー、インハウス・ローヤーとして勤務されている萩原浩二弁護士にご協力いただきます。どうぞよろしくお願いします。
早速ですが、まずは企業の法務部がどういったことをやっているのか、その機能ないし業務の内容についてお聞かせください。

菅沼: よく言われているように、企業の法務部の役割は、予防法務、治療法務、戦略法務、その三つの重要な柱から成り立っています。
 予防法務とは、取引に存在するさまざまなリーガルリスクを発見、分析そして排除または最小化することです。予防法務としての代表的な業務としては、取引 スキームの検証や契約書を作成するにあたり法的な視点から検討し、スキーム自体もしくは契約文言の修正を加えていくことが挙げられます。
 治療法務とは、企業として業務を運営していく中で、訴訟や仲裁、もしくは回収も含めた紛争解決という法律の専門知識が一番必要になってくる分野を担うことです。これも法務部の重要な役割です。
 戦略法務とは、一例を挙げるならば敵対的買収防衛とは何か、その導入の効果は、具体的な方法はということを法律の観点から分析して、それを経営に対して提言していくことです。あるいは、会社法が変わったことでできるようになった グループ関係会社の組織再編に関して、会社としてこうすべきなんじゃないですかと提案していく。これらが戦略法務の代表的な例です。
 さらに加えますと、当社にはコンプライアンス部というものがありますが、社員向けのコンプライアンス対応について、事前・事後を含めて法的な側面から支援していくこともあります。
 総合商社は特にリスクの多い業界ですが、自社で解決できるリスクというのが必ずしも多くないので、常にリスクをいかにヘッジもしくはアロケイトできるかを念頭においておかなければならない。そういう中で、法務の知識や経験なり、法務のスクリーニングを通してリスクをミニマイズした上で、これだけの利益があるのだからこのリスクをとってもいいという提案を行なっていくということも法務部の役割だと個人的には思っています。

花井: 補足すると、商社の商売も単に物を売ったり買ったりだけではなく、ファイナンスや税務等も含めいろいろな要素を組み合わせて、一つのビジネスに仕立てていく。取引の最初のきっかけは営業部門にあるのかもしれないが、それをつくりあげていく過程で、法務、財務、経理などの職能部門が関わる。その中で、結構主体的にこの過程をコントロールするのが法務なんです。

――監視監督という側面を持っているんですか。
花井:
 監視というより、ビジネスをつくりあげていく上で、法規制だけではなく総合的に機能する形にするという点が重視されます。その過程をコントロールする機能が法務の要であります。
 例えば、金融機関とか証券会社などのいわゆる金融をやっているところは、業界として取引規制がきちっと働いているいわゆる規制業種です。
 一方、商社の業種業態というのは通常の取引における法規制を除き商社を対象とする特段の取引規制はありませんので、法律に抵触しない限り多種多様な取引の形が創造できることになります。柔軟な発想で、いろんなビジネスをつくりあげていく中心にいるといってもいいかもしれません。

――先ほどコンプライアンス部への支援のお話がありましたけど、法務部の仕事の相手方についてお聞かせいただけますか。

菅沼: 原則としては、各営業部門や各職能部門ですが、取引スキームが複雑な契約交渉や債権回収の場合には営業や弁護士とともに当然直接客先に行くこともあります。

――昨年のエクスターンシップの経験から、営業部門と法務部を含めた職能部門との間には多少距離があるように感じたのですが、営業部門の方々の信頼をいかに獲得していくか、何か工夫はありますか。

花井: 二つあると思います。一つは営業部門からの提案が、そのままでは問題があるときに、ただ単にダメだというのではなく、代替案をいくつか提示する。その方がリスクが少ないしいいと納得してもらえれば、営業部門は法務部を評価する。
 もう一つは、営業部門が契約書を作ったり、相手と契約や法律上の問題を踏まえて交渉をするのに限界があるので、その際はわれわれも一緒に走ります。これもまた営業から感謝されるんです。
 だから決して、法務部が頭でっかちでやかましいと思われているわけではありません。

――それでは、特に商社の法務部の特徴と面白さについてお聞かせくださいますか。

花井: 商社のビジネスはある意味で一番先端を走っているので、法律上の規制がまだ及んでない世界に常にぶつかっていくわけです。このとき、法律はこうなっているとか、過去の判例はこうだとはいえない世界にいるわけですから、自らの信じるところにしたがってあるべき姿を推し量りつつ進めることになります。判断の合理性、納得性や普遍性がポイント。場合によっては先例を作る目的で意図的に訴訟をすることもありますし、判例を踏まえ新たに法制化していく過程で協力を求められることもあります。
 自分たちが常に先端を走っていて、法律やケースが後を追いかける。そういう過程に関与できることもあるため、商社ビジネスに係わる法務は面白いんです。
 例えば、立法化のひとつの方法として経産省の研究会などで立法の必要性を訴え、商取引をする上での法制化が急務なんだなということで、法務省が立ち上がるということもあると思います。

 

2 双日法務部のインハウス・ローヤー

――最近になっていろいろな企業の法務部の中に弁護士が入るようになっていますが、貴社の場合はいかがでしょうか。

花井:
 歴史的には1980年くらいから外国人弁護士を米国人を中心に採用していますが、日本人の弁護士の場合は90年代に入ってからとなります。人数は、法務部の中に1、2人くらいという状況がつづいており、現在は2名となっています。契約の形は事務所をやめて当社の社員になっている嘱託契約形態の弁護士と、事務所に籍は置き当社にフルタイム出向で来ている弁護士がおります。契約は1年で更新しています。
フルタイムでどんな仕事をしているかというと、あくまで「一担当者」です。ここにいる萩原弁護士も含め、個別に担当の案件を持っています。弁護士の資格を持っているといっても特別にジェネラル・カウンシル として勤務しているということではなくて、他の法務部員とまったく一緒です。

――なぜ、常に弁護士を1、2名入れていらっしゃるんですか。

花井: 先ほどもお話ししたとおり、当社に日本人の弁護士が入り始めたのは1990年代初頭からです。その頃から、たくさんの新しい法律ができて法制度がより複雑化し、社内でも一定の対応ができる、外部に依頼するにしてもある意味で前捌きをある程度しておかないと機能しないという状況になってきました。また商社はさまざまな仕事をしているので、例えば、知財や倒産法のみが専門というよりある程度オールラウンドにできる人が中にいればいいと思います。
 それに加えて、若い社員にとっていい意味ですごく刺激になるということもあります。日本人の弁護士だけでなく外国人の弁護士もいることで、言葉やモノの考え方、文化の面で刺激を受ける。そうすると、海外のロースクールへの進学などモチベーションアップにつながる。社内に弁護士を置いている目的は一つではなく、いろいろあるんだと思っていただいた方がいいですね。

――貴社には若手の弁護士がいらっしゃいますが、それには何か理由があるのですか。

花井: 例えば弁護士になって10年ほど経過していると、経験もあって素晴らしいことですが、まずそういう弁護士が自分のキャリアを考えた場合本当に来てくれるのかという問題があります。今はまだ弁護士の人数もそう多くないし、経験のある弁護士がいなくなると事務所に大きな穴が開いてしまうことになります。
一方、商社における法務業務は、先ほどお話ししたようにテリトリーがかなり広いので、例えば通常取引関係の仕事だけでなく、人事問題のトラブルや不動産案件、クレームの処理などありとあらゆる仕事の機会があるので、若手の弁護士にとっては、教材としてそういう仕事に取り組めることがすごく魅力なんだと思います。

萩原:
 弁護士としてある程度経験を積むと、顧客がついて簡単には事務所を空けられません。仮に他のパートナーに顧客を預けたとしても、みんな離れていってしまう可能性が高いわけです。顧客は「その弁護士」個人にお願いしているという要素が強く、ある程度のキャリアを積んで顧客を抱え始めると、会社の法務部などに入るというのは非常に大変だと思います。そういう事情もあるのかもしれません。

――それでは、どういう流れの中で外から来ていただくのですか。付き合いのある事務所に「誰かいい人がいないか。」と聞いてみたり、ということなのでしょうか。

花井:
 そうですね。いろいろな事務所とお付き合いがあるので、その事務所の先生方とお話をしながら、「実は新たに弁護士の採用を考えているんだけど、協力してもらえないか。」と聞いたりするのが一般的です。商社に2、3年行って戻ってくれば視野がすごく広まるし、そこからまた新たなお客さんを獲得することになるかもしれないから、行ってこいという事務所も少なくありません。だから複数のいろいろな事務所に同じようにお願いしています。

萩原: 少なくとも今までは、年に3000人も修習を終えるという状況はなかったので、修習生も最初は事務所に入るものだと思って事務所回りしていますし、企業の側も、これから多くの修習生が出てくるからといって、インハウスの採用を広げようという準備もまだ十分にはできていないはずです。その辺はこれからではないかと思います。

――菅沼さんからすると、社内に弁護士がいるというのはいかがですか。

菅沼: 1、2年一緒に仕事をさせていただく中で、案件を進めていく上で法務部を含めた各職能部がどのようなファンクションをもち当社の決裁のプロセスにどのようにかかわってくるのかであるとか、双日法務部の強み、弱みは何かとか、法的案件について営業部に対してどうアプローチするのか、ということを含めて私たちと同じモノの考え方ができるようになるということが大きいです。同じモノの考え方を持っている弁護士にチームの中に入ってもらうことで、案件の進みが速くなるし、的確なアドバイスを受けられるというようになります。一緒に仕事をしているときはもちろんですが、事務所に戻られたあとも非常に心強い。大事な人脈になります。

 

  インハウスローヤーの視点

――萩原先生は普段はどういったお仕事をなさっていますか。

萩原: 他の法務部員と全く同じです。

――弁護士としての助言などをされることはないのですか。

萩原: 弁護士だということで他の法務部員から質問されることはもちろんありますが、それは多分聞いてる本人にしても先輩に聞いている程度の話だと思います。
 もちろん、要件事実的なものの考え方や、手続について弁護士として実務を通じて得た経験もあるはずなので、そういう土台に乗って話をするので、多少は違う助言ができているはずではないかと思いますが、訴訟事件などで裁判所に提出する書面を外部の弁護士が作成する場合、その書面について修正や加筆などのお願いは他の法務部員よりはしているのではないかと思います。

――訴訟をやることはないのですか。

萩原: 訴訟は外部の弁護士にお願いしています。

花井: 訴訟仲裁などの手続は、全部外部にお任せする。その方がいいんですよ。

――具体的には、どのような点が良いのでしょうか。

花井: 中で扱うこともできないこともないけれど、中の弁護士は自分の担当の案件を持って仕事をしている以上特定の訴訟案件をやるには限界がありますし、手続などの実務に関することは専門家に任せた方が安全です。登記などもそうですが理論的にはできても手続上はいろいろな制約があるものです。それから、訴訟や仲裁では、判断の客観性が重要で、それを担保するために外の弁護士の意見を聞くんです。中の力学だけで動いているわけではなく、外から見ても判断が妥当だと言えるように。

――個人的に弁護士として何かやっていることはないのですか。例えば、知人を弁護されることなどはありますか。

萩原: 個人事件を受任することはないですね。現在、裁判所からの依頼で破産管財人に就任することはあります。あと、弁護士会の公的活動義務があるので、国選・当番弁護や法律相談などは、適宜許可を得てやることもあります。

花井: もちろんそれについては弁護士の義務なので、ぜひやってくださいということです。

――法務部員としての業務もお忙しい中で、弁護士として他の仕事をする余裕はあるのですか。

萩原: たしかに、時間に余裕があるわけではありませんが、複雑でない国選事件ならなんとかやれると思います。 例えば覚せい剤使用の自白事件などです。
 ただ、公的活動義務といっても、会社の業務に支障がないことが大前提となるので、なかなか難しい。一応花井部長の理解があるので、やろうと思えばできますけどね。

――話が変わりますが、萩原さんはなぜ双日に来ようと思われたのですか。

萩原: 楽しそうだったからです(笑い)。

――今までの弁護士生活の中で、何かきっかけがあったのですか。

萩原: きっかけというよりも、今の事務所に入って3年目くらいになると、だんだんマンネリ化してくるところがあって、ちょっと方向性を変えたいと思っていた時期ではありました。そんなころに、花井部長から事務所のボスのところに「フルタイムで法務部に来てもらえる人を探している」という話があったんです。私自身も双日関係の仕事を担当していたこともあり、双日がどんなことをやっている会社なのかは分かっていたので、いろいろな商売をしている商社の法務部というのは、面白そうだなと考えました。私はこれまで会社勤めをした経験もないので、会社の中に入っていろいろやるのもいい経験だなと思って、入ることにしたんです。

――入ってみて実際のところはいかがですか。

萩原: 実際のところは、思っていた以上に楽しいです(笑い)。外部の弁護士というのは、外にいるだけなんですよね。例えばコメントを求めても「その点については複数の考え方があって、それぞれこういう結論になります。どちらの考え方をとるかについては、会社の方で選択してください」というように、客観的な見解を述べるだけで、結論は出さない。外部の弁護士にはそのような客観性が求められているということもあるけれど、責任を回避するためもあって、具体的な判断をしない傾向にあると思います。しかし、内部にいると「後は会社で決めて」などとは言えないので、「当社としてはこうすべきだと考える。理由は―――だ。」と言わなければなりません。自分で具体的な判断をして会社の進むべき方向性を見つけていくことになります。そういうことは、これまでの弁護士の経験ではあまりなかったことなので、楽しいですね。

――将来に関してはどう考えていらっしゃいますか。将来こうしたい、というような具体的なプランはお持ちですか。

萩原: なかなか難しいですね。多分、数年後、双日の法務部から出身の事務所に戻るでしょうね。そこで前と同じ仕事をしていても面白くないので、双日での経験を踏まえて、新しい仕事をしてみたいです。ただ、現時点では、具体的な計画があるわけではありません。むしろ、まだ双日に来てから1年3ヶ月くらいなので、双日でこれからどうしていくか考えている最中というところです。

――感覚としてはもう社員なのでしょうか。

萩原: 基本的にはそうですね。できるだけ社員と同じ意識でやるようにしています。

――仕事の性質の違いがある中で、当初は戸惑われなかったのでしょうか。

萩原: それはもちろんあります。純粋に社内特有の用語がわからないというようなこと、他にも、法律事務所の場合だとお客さんが来てくれることが多いけれど、会社法務の場合はこちらが出向くことも多いので、他のフロアーのどこの席に座っているのか分からない人を社内で訪ねていって、誰に声をかければいいのか戸惑いました。今はもう慣れましたけどね(笑い)。でも、仕事の内容での戸惑いはそれほど感じていません。契約書のチェックなど、法律事務所でやっていたこととそんなに変わるわけではないので。私の戸惑いは、普通の新入社員の戸惑いと一緒かもしれません。

 

4 おわりに

――萩原先生のお話にもありましたが、外部の弁護士と法務部員またはインハウス・ローヤーの違いはどういったところにあるのでしょうか。

花井
結局われわれの仕事はあるものをビジネスとしてつくりあげていくことですよね。そのときにどう設計するか、どう進めるかというのは、中で考えなければならない。新しい分野であれば、外部のプロに聞いても人によって答えは異なるでしょう。そこで、われわれは自分たちが目指す方向と方向感を共有できるもしくはしてくれる外部の人をうまく使いながらビジネスをつくりあげていく必要がある。外部の誰を使うかっていう判断が重要になってきます。
 したがって外部の弁護士に相談するときに、「どうしましょうか、どうしたらいいですか」いう聞き方は絶対にしない。「こういう風にやってもらいたい」とお願いして、できないというなら他に相談するということになるんですよね。
 外部の弁護士の仕事はどちらかというと専門ごとで分かれていて「狭く、深く、請負」型なんです。一方、企業内でやることは、ビジネスの青写真を自分で作って、外部の弁護士を含めたいろいろなプロをどこでどう動かすかというキャスティングや脚本を、総監督として実行するということなんです。
 だから、基本的に、中と外での役割が違うんです。

――使うということですか。

花井
そうです。表現はともかくそういう発想でないといい仕事が出来ません。


――それでは、貴社の法務部は、法務部員またはインハウス・ローヤーとしていかなる人材を求めていらっしゃいますか。

花井
商社の法務では、頭でっかちで勉強ばかりしているいわゆる学者タイプの人はあんまりいらないんです。もちろん法律知識は必要ですが、それより論理的な考え方ができて、組織内部での実務的処理ができるセンスやバランス感覚を持っていることが重要。専門知識や専門的な手続きを要する場合は、弁護士、弁理士、司法書士やCPAなどのいろいろな外のブレーンを使えばいいのです。そういう人脈やブレーンをどれくらい持っているかということ。調べる手段を持っていればいいわけで、そういう意味では法学部出身者にこだわる必要はありません。いろいろ考えるのは必要ですが、結論が出ないというのでは困るわけです。
 それよりも、商社は商売をやっているわけだから、法務マンもある一定の決められた期限や時間軸を常に意識しながら、必要な内部決裁をとって対外的な問題の処理をきちんとできる人が必要なんです。そうして判断した結果について、営業部門を説得して、会社を動かしていかなくてはいけない。そういうことがまず第一です。法律の知識などというよりそういうセンスなんですよね。インハウスローヤーも事案処理ができるというセンスについては同様です。先ほどの話でもありましたが、商社は新しいビジネスをクリエイトしていく最先端にいることを意識して、多様な商社ビジネスとこれを踏まえた企業法務の方向性を見据えることができる感性をもった人に来てほしいと思いますし、またそういう人を育てていきたいと思います。

――最後に、みなさんそれぞれから企業法務を目指すロースクール生に対して求めるものといいますか、ロースクールで身に付けておくべきことについてお聞かせ願えますか。

花井
一生懸命勉強して知識を豊富にすることは大切です。だけど、それだけではビジネスの世界では役に立ちません。知識をどう利用するかということと、自分ひとりで処理できることはそう多くないので、たくさんの人脈を持つことが大切です。弁護士、司法書士、弁理士だけでなく案件によっては建築士だとか、医者や不動産鑑定士等々それぞれの業界にプロがいるわけだから、幅広くたくさんの人を知っておく。学者になりたい人は別ですが、企業法務に入りたい人は、限られた時間の中で考えて、判断をし処理することを強いられるのでこういうセンスを持っていることが重要ですね。

菅沼
ロースクールという制度ができた趣旨に立ち返ってみればわかると思うのですが、受験予備校の勉強だけで合格して、弁護士、裁判官、検事になるという今までの司法試験のシステムではこれからの法曹を担う人材の育成という観点からは不十分ということなのかもしれません。特に企業法務、ビジネスの最前線で仕事をしていきたいと考えるのであれば、より複雑化する案件の処理について、迅速にその全体像を把握する能力や高度な専門性が今まで以上に求められることになり、この能力は机上の勉強だけやっていても、身につけるのは困難なように思います。もちろん勉強による知識の習得は必要ですが、それだけではなくて外部つまり現実社会と接する機会を持って、そこで今起こっていることと勉強とを結び付けていけば、今我々が求める企業法務を担当する弁護士が生まれてくるのではないかと思います。みなさんにはそれを目指していただければと思います。

萩原
おそらくわれわれよりもたくさん勉強して弁護士になっていかれるのだろうと思いますが、基本的には法律をたくさん知っていることは大したことではないんです。法律のモノの考え方は、そんなに変わらない。刑事には刑事、民事には民事の考え方があって、色々な法律を見ていると、大体こんな感じかなというのが分かってきます。それが法的センスだと思います。そういう法的なセンスを2、3年で十分磨いて、将来の法曹としてのキャリアに役立ててほしいです。さらに、法的センスだけではなく、自分で考えてある一定の方向性を見出せる力、センスも磨いてほしい。ではどうすればいいのかと言われても答えを持っていないのですが、本を読む、新聞を読む、判決を読む、友と議論する、などを通じて自分なりに磨いていけばいいと思います。

――そろそろお時間のようですので。貴重なお話を伺って大変勉強になりました。今日はお忙しい中お時間を割いていただき誠にありがとうございました。

 

花井 正志
小樽商科大学卒業。1977年日商岩井株式会社入社。現在、双日株式会社法務部長

 

菅沼 博文
中央大学法学部卒業。1993年日商岩井株式会社入社。現在、双日株式会社法務部勤務

 

萩原 浩二
東京大学法学部卒業。2000年弁護士登録。2005年双日株式会社に出向