はじめに

2013年3月、早稲田大学ロースクールの修了生、同年代の弁護士を中心に早稲田リーガルコモンズ法律事務所が設立されました。早稲田大学ロースクールとは「コモンズプロジェクト」として連携し、様々な取り組みを進めています。
今回は、これまでの常識に囚われず先進的な取り組みを行っている早稲田リーガルコモンズ法律事務所の先生方にインタビューを致しました。
インタビューに答えて頂いたのは、代表パートナー弁護士の河﨑健一郎先生、国会での立法経験もある竹内彰志先生、そして村方善幸先生です。村方先生はロースクール時代「Law&Practice」初代編集長だったということで、創刊当時のお話も伺うことができました。

インタビュープロフィール

河﨑 健一郎 代表パートナー 東京弁護士会所属
1999年早稲田大学法学部卒業
同年アンダーセンコンサルティング(現アクセンチュア株式会社)入社
2004年同社退社
2007年早稲田大学法科大学院修了
2008年弁護士登録(61期)
2013年3月早稲田リーガルコモンズ法律事務所参画

村方 善幸 パートナー 第一東京弁護士会所属
2001年早稲田大学政治経済学部経済学科卒業
同年東京三菱銀行(現三菱東京UFJ銀行)入社
2004年同社退社
2007年早稲田大学法科大学院修了
2008年弁護士登録(61期)
2013年3月早稲田リーガルコモンズ法律事務所参画

竹内 彰志 パートナー 第二東京弁護士会所属
2005年早稲田大学法学部卒業
2008年早稲田大学法科大学院修了
2010年弁護士登録(63期)
2011年国会議員政策担当秘書
2013年早稲田リーガルコモンズ法律事務所参画

 

「早稲田リーガルコモンズ法律事務所」について

――早稲田リーガルコモンズ法律事務所(以下コモンズ)はどのような経緯で設立されたのでしょうか?

河﨑:元々早稲田大学ロースクールの学生だった頃から、同期と将来一緒に仕事をしたいということを言っていたんですが、最初はそれぞれ修行した方がいいということで、暫くは別の法律事務所に勤務していました。去年(2012年)の3月、登録して3年くらい経ったときに事務所を決めようということになって、場所を決めて申し込みに行ったら、その日の朝に埋まっちゃったんです。振り出しに戻ったと思ったところに、ご縁がありまして石田眞先生[1]のご紹介で遠藤賢治先生[2]にお会いすることになりました。そうしたら意気投合して。遠藤先生は理念を立てて、僕らが法律事務所の中身を作る。それに早稲田大学が協力をして、僕らは早稲田大学の教育にも協力をする。そして、早稲田の修了生の中で志を同じくする人がいれば事務所に参加してもらうという形で、いわば法律事務所とロースクールの間で利益還元の構造を作るという話をその場でしまして、今に至る、というわけです。

――早稲田リーガルコモンズ法律事務所は早稲田大学ロースクールと提携する中で具体的にどのような活動をしているのでしょうか?

河﨑:一番大きいのは、コモンズプログラムという形で、常設のエクスターンシップをやっています。通常のエクスターンというのは夏と春にそれぞれ2週間程度法律事務所などに行くということになっていますが、我々は、通年で、毎月基本的に2人から5人を事務所に受け入れて、我々と一緒に事件を見るという経験してもらうという活動を行っています。
 さらに、これは別に大学と何か協定を結んでいるわけではないですが、早稲田ロースクールの修了生を数名アソシエイトという形で2年間受け入れて、トレーニングして、法律家としての基礎的な素養を身に着けてもらう手助けをしていくという取り組みをはじめています。

――竹内先生にもこちらの事務所に参画された当時のお話をお聞きできますか。

竹内:私はこれまで国会での立法活動を中心にやってきたんですが、村方さんとのご縁、そして学生への指導を行う事務所の特色、なにより新しいことをやろうという渦に入っていきたいという思いで、ご一緒させて頂くことになりました。当事務所はロースクール制度との親和性があり、ロースクール教育にも携わっていきたいという人が集まっているので、価値観が近い人と色々な話ができるというのが楽しいですね。
 とりわけ、ロビイング分野で活動している弁護士が多く集まっており、政治や政策の情報交換が日常会話として行われていることに楽しみを感じています。私自身の取り組みとして、現在は、通常の業務に加えて、日本弁護士政治連盟という組織で活動しています。それは弁護士としての活動でありつつ、政治との関わりでもあります。
 弁護士と政治との関わりというのは、さまざまで、例えば議員秘書、自治体職員や官僚になる弁護士もいますが、他方で、あくまで弁護士として活動する中で弁政連やロビイング活動などを通じて政治と関わるというやり方もあります。河﨑さんは運動論としてのロビイング活動として、サフランの活動をされているということになると思います。


[1] 早稲田大学大学院法務研究科教授。専門は労働法。
[2] 名古屋学院大学法学部教授。元裁判官・早稲田大学大学院法務研究科教授。

 

サフランの活動について

――今お話が出ましたがサフラン[3]の活動について河﨑さんにお話頂いても良いでしょうか?

河﨑:一番最初は震災後2011年の5月頃、何人かの弁護士で福島県内に法律相談に行くことになりました。その場では小児科の医師の方が「福島県内は放射線量が高く、政府から避難指示は出ていないものの、これまでの国際的な基準からすれば、健康に影響がありうるとされている地域だ。そのことを地域の住民たちに知らせるべきだし、そのためにどうすべきか考えている」という話をされていました。そのときに、地元の住民の方から「医者の人たちはそうやって踏み込んで、自分たちに情報を提供したり、自分たちを守るための活動をしてくれました。それに比べて、弁護士の人はどういった活動をしているんでしょうか」という話があって、それが私の心に刺さって、それから色々勉強したんです。
 この国の法律だとこれまでは年間1ミリシーベルトというのが一つの基準になってきていたわけです。それを超える状況にある人達、特に子どもを抱えるお母さんたちが非難しようかどうか迷っているときに、そこに対して何もしない訳にはいかないと考え、私自身も含め子育て世代の法律家に呼びかけて、サフランを作ることになりました。当初は東京の20代30代の弁護士たちが中心でしたが、今は福島、西日本、北海道などから、幅広い弁護士、司法書士が入っていて、登録者は70名程います。

――そういった法律家の方々が作ったサフランが中心になって、子ども被災者支援法[4]を制定するための活動をなされていたということですか?

河﨑:私達だけではなく、同時期に色々な人たちが色々なことを言っていました。それが一つに集まったのが被災者支援法でした。僕らが最初に取り組んだのはいわゆる「自主」避難、つまり政府指示による避難区域の外側の住民の方々の問題です。僕らが活動を初めた時期は新聞ですら扱われていなかったので、まずは社会問題化しないといけないということで、今コモンズに所属している福田健治弁護士などと一緒になって運動しました。
 その後にそこで関わった人達を中心に、国会の中で院内集会をやりました。そこでは、原子力損害賠償紛争審査会に対して公聴会を開くことを求めました。その甲斐あってか、夏の段階で出た中間指針では、損害賠償において自主避難というのを全く対象にしてなかったものが、2012年の12月に出た中間指針の追補では相当因果関係にある損害は自主避難であっても賠償するという一文が入りました。それはすごく画期的なことだったんですよ。
 ただ、損害賠償っていうのは、基本的には過去の出来事に対するものなんですよね。将来に対して何かできるものではない。低線量被曝などの健康影響があるかどうかわからない不安な状態に置かれること自体が損害だと僕らは考えているので、そういった状態にあり続けているという今の状況を打破するためには損害賠償だけでは駄目で、やはり立法が必要だということで、法律を作ろうという提案を年明けから始めました。それが子ども被災者支援法につながっていくという流れです。

――立法に携わるという点についてお聞きしたいのですが、特に弁護士が立法に関わる、という点に関して、そのメリットや限界などはあるのでしょうか?

河﨑:まあ、弁護士の限界というものはありますよね。例えば、最高裁判例が出ている問題に関して、法律で変えちゃおうなんて弁護士はなかなか思わないけど、議員さんたちは、そういうことを言える。
 ただ、基本的にはやはり法律学んだ人が立法の現場にいるっていうのはそれはメリットが多いですよ。これまで基本的に役所が法案を作り、そこに対して手出しができないとされていたところに、中身を読んで理解できるというのは弁護士ならではだといえます。法律を読む場合には、「何が書いてあるか」以上に、「何が書いてないか」が重要ですよね。書いてあることを字面どおりに読むことは難しくはないけど、これまでの類似の法律にある制度や手続が、この法律にはない、ということに気付けることが重要になるんです。その点は、やはり法律家、実務家であることで気付けるものだから、そういった人達が関わっていくというのは、僕はすごく意義のあることだと思いますね。

――今までずっと官僚を中心に作られていた政策形成過程に対して、法律家がある意味で風穴を開けられるというか、オルタナティブを作れるのではないかと思うのですが、そういった考えというのはお持ちですか?

河﨑:方向性としてはそう思います。ただ、それがそう簡単にできているのか、自分たちがどうなのかって言われると難しいところがあるんだけど、理想としてはそういう方向にいくべきだと思いますね。

――そのために今足りないものは何だと思いますか?

竹内:そこはまさにネットワークだと思うんですよ。日弁連としても、政策秘書や任期付公務員に弁護士を増やそうというキャンペーンをやっているんですけど、どういう働き方があるのかというところは、待ってても気付かないわけです。ニーズとして何があって、何ができるのかを考えて、実行してそれを発信していかないといけないと思います。
 例えば、法律案を役所が作ってきて議会に説明に来て、審議をするという今の立法の流れの中で、専門性を持っている法律家というのは、役所の人と対峙するという意味で、例えば官僚出身の政策スタッフと同じくらい、あるいはそれ以上の専門力はあると思います。例えば、立証構造を考えた上で法律を作れているかという視点は役所の人にはあまりないのではないでしょうか。
 あるいは、地方のレベルでは条例の制定支援を考えると、今はそれぞれの議会の事務局や議員さんが一生懸命考えて作られているんですけど、そこに弁護士がどんどん入っていったらクオリティが上がるんじゃないかと思うんです。
 例えば当事務所でも地方自治体の再生可能エネルギー条例の策定支援をやっている水上貴央弁護士がいます。これは、既に条例制定支援っていう枠組みがあってその仕事をしようというのではなく、再生可能エネルギーをやろうと思ってやり始めたら、そういう仕事があったんだということになりますよね。逆にそうすると次は、そういう条例を作るというところに法律家が入る余地があるんだ、あるいは作った後のフォローなんかもできるんだ、というところになると、自分以外の人もやることになると思うんですよね。
 弁護士の業界雑誌「自由と正義」に書いた[5]んですけど、目の前に出てきた問題を解決するというのが、課題解決型の政治との関わり方で、もうひとつが、ある問題を社会的に問題だからこれを解決したいという課題設定型という関わり方、2種類の関わり方がある中で、弁護士に限らず、政治とどう関わっていくかというのは様々な形があると思います。


[3] 福島の子どもたちを守る法律家ネットワーク(略称:SAFLAN)。政府指示による避難区域の外側からの避難者(区域外避難・自主避難)を支援することを目的とした法律家のネットワーク。
[4] 2011年3月11日に発生した福島第一原発事故の被災者、特に子どもに配慮して行う生活支援を目的として、子ども・被災者支援法議員連盟が中心とした超党派による議員立法。2012年6月21日衆議院本会議で可決成立し、6月27日から施行された。
[5] 竹内彰志「国会における弁護士スタッフの役割-政策立案活動の実際-」(自由と正義2013年4月号、2013)

 

「Law&Practice」について

――村方先生はLaw&Practiceの初代編集長をなさっていたと伺いました。発刊当時の様子を教えて頂けますか。

村方:初めてこの企画を考えたのは1年生の夏でした。授業でレポートを書く機会があって、僕はそこでハーバードローレビューの歴史やその役割についてのレポートを書き、日本でもそういった法律雑誌が必要なのではないかと論じました。その後、ある飲み会でその話をしたら、「いいじゃないか、やろう」という話になって、5人くらいで始まったんです。
 実際の活動は2年生になってからでした。一番問題だったのは学校側が反対とは言わないまでもこの企画をすごく冷ややかに見ていたことですね。でも、20代や30代の貴重な時期を勉強だけで終わるというのは寂しいし、また、当時のロースクールには横や縦のつながりができるような環境もなかったので、そういった企画がないと面白くない。そういう話を説いて回ったんです。そういう中で最初に立ち上げに賛成してくれた堀(龍兒)先生[6]がしっかりとフォローしてくれた。

――発刊には苦労したこともありましたか。

村方:心が折れそうになることは沢山ありました。人数も集まって企画もあるんだけど、どうやってお金を集めたら良いかわからなくて、発刊までいかない。そこで、ウェブだったら安くできるからウェブから始めようということになりました。本については大変だしお金も時間もかかる。まずは資金調達を目指そうということになった。では資金調達はどうやってやるかというときに、堀先生が記念パーティをやろうと提案してくださって、色々なところに顔を出して趣旨を説明して、お金を集めてパーティをやった。こうやって、なんとか形にして「Law&Practice」の組織づくりをして、次の代にバトンタッチをすることになりました。

――そういった困難を乗り越えてもやりたいと思ったきっかけというのは何だったんでしょうか。

村方:なんでやりたいかっていうと、何より面白そうだったから。あと、やっぱり専門職大学院として勉強だけしていれば良いということについてものすごく反感というか問題意識を持っていました。というのも社会人や意識の高い人達が集まる大学院で勉強だけをするというのは、非常に資源の無駄遣いだし大学側が提供すべき付加価値として足りてないという風に思っていました。自分たちで何かをやるという雰囲気を作りたかったし、そういう雰囲気が実際にあったんです。それに、これが絶対に日本のロースクール制度にとって必要だという確信があったから、やれたんだと思います。

――私達の代でロースクール10期目を迎えますが、今の「Law&Practice」についてどう思われますか?

村方:よく頑張っているなという風に尊敬を込めて見ています。ただ,「Law&Practice」は現役生のものなので、どういう「Law&Practice」にするかというのは、現役生が思った通りにしていってほしい以外はありません。「Law&Practice」を使って自分を成長させて欲しい。そういう「Law&Practice」を支援していきたいという風に思っています。10年目にもなると変なプレッシャーとかを感じるかもしれないけど、自分たちが成長するためにどう使えるかという視点でわがままにチャレンジしていって欲しいです。早稲田ロースクールは「挑戦する法曹」を掲げているけども、まさにそれです。「Law&Practice」というものを使って何かにチャレンジするということ、それが「Law&Practice」を作った時の僕達の考えであり、希望。現役生が何らかの形でチャレンジできる媒体であってほしい、本当にそれなんです。


[6] 元早稲田大学大学院法務研究科教授。専門は民法・商法。

 

おわりに~法曹志望者へのメッセージ

――今後、リーガルコモンズ法律事務所をどのような事務所にしていきたいと考えているのでしょうか?

河﨑:僕ら自身がまだまだ成長の途上にある年齢だしキャリアの浅さなので、それぞれ関心があることを思う存分やっていく基盤のようなもの、プラットホームのようなもの、それはまさに共有財(コモンズ)というか、入会地にある井戸のようなものを作りたい。人が自然とそこにあつまるような、ね。
 それと、法曹業界って新卒を受け入れるマーケットが狭いんです。なぜなら教育しないと使い物にならないから。でもそれが一定の年数実務を経験して、それなりに一通りできるっていう人は、むしろ引く手数多になっていきます。だからむしろ法曹業界はセカンダリーマーケットの方が広いかもしれないと思っています。そういったところにうちの事務所から優秀な人材を供給していくということができたらいいなと思ってます。
 また、折角これだけ色々なバックグラウンドを持った、しかも若い人たちが集まって作った、挑戦することに前向きな事務所なので、新しい取り組みというのに、どんどん挑戦していきたいと思っています。その1つが、託児法律相談。子供を連れても、託児料無料で受けられるっていう法律相談を定期的に開催するっていうのは初めてだと思います。また「毎月15日は遺言の日」という取組みを始めて、その遺言の日には無料で、遺言関係の相談を、電話相談を含めて受けられるような体制を作っていきます。さらに遺言の関係でいえば、単に遺言書くだけじゃなくて、「映像遺言」という、動画でメッセージを残してそれを相続人の人に届けてあげる、というサービスを始める予定です。こういうのは個人の法律事務所ではなく弁護士法人だからこそできることだと考えています。

――最後に、このホームページはこれから法曹になろうとするロースクール生や学部生の方々も多く見てると思いますので、そういった方々へのメッセージをお願いできますか?

河﨑:今は法律家という存在が魅力がないと思われている時代になったと思うんですね。弁護士になっても仕事が無いんじゃないか、あるいは就職がないんじゃないかということもすごく語られているし、弁護士以外にも知的職業っていうのが色々ある中で業界全体の魅力が薄れているというか、地盤沈下しているところがあると思うんですよね。
 ただ、1つ伝えたいメッセージがあるとしたら、僕自身、転職してこの業界に来て5年間弁護士やって思うのは、こんなに面白い業界はないっていうことですね。というのは、金銭的な実入りも、コツコツまじめにやれば、僕は全然悪いと思わないし、それ以上に、やりがいというのは圧倒的にありますね。
 弁護士ってユーティリティプレイヤーなんですよ。例えばさっき言ってたロビイングみたいな場でも、弁護士でない人がやるのと弁護士がやるのとでは全然違うところがあると思います。社会人経験者の方ならわかってくれると思いますが、世の中ってまず入り口に入るのが大変なんですよ。そしてその入り口に入るという点では弁護士というのは信用があるので、それを上手く生かしていって、ビジネスでも社会運動でも自分たちのやりたいことを、実現していく喜び、楽しさというのは、弁護士でなければできないことだと考えています。
 だから、弁護士という職業のプラスの面や、今も十分目指すに値するものであるということは伝えたいことかなと思います。

――今日は長時間にわたりありがとうございました。