国籍法3条1項違憲判決

最高裁判所大法廷平成20年6月4日判決(最高裁ホームページ
2008.6.15 伊藤 朝日太郎


事案の概要

本件は、いずれもフィリピン国籍の母と日本国籍を有する父との間に出生したX1~X9までの各原告が、出生後に父から認知を受けたことを理由に法務大臣あてに国籍取得届を提出したところ、原告らが国籍法3条1項に規定する国籍取得の条件を備えていないとして、日本国籍の取得を認められなかったため、父母の婚姻及び嫡出子たることを国籍取得の要件とする同項の規定は、憲法14条に違反するなどと主張して、被告国(Y)に対し、日本国籍を有することの確認を求めた事案である。

第1審(東京地判平成18年3月29日判時1932号51頁)は、国籍法3条1項の準正要件がもたらす区別が憲法14条に違反すると判断した上で、準正要件のみが違憲無効であると解することによって原告の請求を認容した。

これに対し、第2審(東京高判平成19年2月27日判例集未搭載(事件番号・平成18年(行コ)第124号各国籍確認請求控訴事件))は、以下のように判示して原判決を取消し、原告の請求を棄却した。
「仮に被控訴人らが主張するように法3条1項のうちの上記要件のみが憲法14条1項に違反して無効であるとして、そのことから非嫡出子が認知と届出のみによって日本国籍を取得できるものと解することは、法解釈の名の下に、実質的に国籍法に定めのない国籍取得の要件を創設するものにほかならず、裁判所がこのような国会の本来的な機能である立法作用を行うことは憲法81条の違憲立法審査権の限界を逸脱するものであって許されないというべきである。」


判旨

破棄自判 
1、「日本国籍は、我が国の構成員としての資格であるとともに、我が国において基本的人権の保障、公的資格の付与、公的給付等を受ける上で意味を持つ重要な法的地位でもある。一方、父母の婚姻により嫡出子たる身分を取得するか否かということは、子にとっては自らの意思や努力によっては変えることのできない父母の身分行為に係る事柄である。したがって、このような事柄をもって日本国籍取得の要件に関して区別を生じさせることに合理的な理由があるか否かについては、慎重に検討することが必要である。」

「国籍法3条1項は、同法の基本的な原則である血統主義を基調としつつ、日本国民との法律上の親子関係の存在に加え我が国との密接な結び付きの指標となる一定の要件を設けて、これらを満たす場合に限り出生後における日本国籍を認めることとしたものと解される」が「上記の立法目的自体には、合理的な根拠があるというべきである。」

そして、立法当時には、準正要件は「立法目的との間に一定の合理的関連性があった」。 しかし、その後の社会通念及び社会的状況の変化などを考慮すれば、「日本国民である父が日本国民でない母と法律上の婚姻をしたことをもって、初めて子に日本国籍を与えるに足りるだけの我が国との密接な結び付きが認められるものとすることは、今日では必ずしも家族生活等の実態に適合するものということはできない。」

「また、諸外国においては、非嫡出子の法的な差別的取扱いを解消する方向にあり、国際人権規約(自由権規約)や児童の権利条約には出生による差別を禁止する規定が存在しており、多くの国で準正要件が撤廃されてきている。」

 

「以上のような我が国を取り巻く国内的、国際的な社会的環境等の変化に照らしてみると、準正を出生後における届出による日本国籍取得の要件としておくことについて、前記の立法目的との間に合理的関連性を見いだすことがもはや難しくなっている」。

 

2、他方で、国籍法2条1号により、「日本国民である父から出生後に認知された子のうち準正により嫡出子たる身分を取得しないものに限っては」日本国籍の生来取得も伝来取得もできないという「著しい差別的取扱い」が生じている。

「このような差別的取扱いについては、前記立法目的との間に合理的関連性を見いだし難いといわざるを得ない。とりわけ、日本国民である父から胎児認知された子と出生後に認知された子との間においては、日本国民である父との家族生活を通じた我が国社会との結び付きの程度・・・という観点から説明することは困難である」。

3、これらの事情をあわせ考えるならば、「国籍法が・・・上記のような非嫡出子についてのみ・・・生来的にも届出によっても日本国籍の取得を認めないとしている点は、今日においては、立法府に与えられた裁量権を考慮しても、我が国との密接な結び付きを有する者に限り日本国籍を付与するという立法目的との合理的関連性の認められる範囲を著しく超える手段を採用しているものというほかなく、その結果、不合理な差別を生じさせているものといわざるを得ない。」

4、結局、原告らが法務大臣あてに国籍取得届を提出した時点において「国籍法3条1項の規定が本件区別を生じさせていることは、憲法14条1項に違反するものであったというべきである。」

5、平等原則と、父母両系血統主義を踏まえれば、父から出生後に認知されたにとどまる子「についても、父母の婚姻により嫡出子たる身分を取得したことという部分を除いた同項所定の要件が満たされる場合に、届出により日本国籍を取得することが認められるものとすることによって、同項及び同法の合憲的で合理的な解釈が可能となるものということができ、この解釈は・・・不合理な差別的取扱いを受けている者に対して直接的な救済のみちを開くという観点からも、相当性を有するものというべきである。
そして、上記の解釈は、本件区別に係る違憲の瑕疵を是正するため、国籍法3条1項につき、同項を全体として無効とすることなく、過剰な要件を設けることにより本件区別を生じさせている部分のみを除いて合理的に解釈したものであって、その結果も、準正子と同様の要件による日本国籍の取得を認めるにとどまるものである。この解釈は・・・血統主義の要請を満たすとともに、父が現に日本国民であることなど我が国との密接な結び付きの指標となる一定の要件を満たす場合に出生後における日本国籍の取得を認めるものとして、同項の規定の趣旨及び目的に沿うものであり、この解釈をもって、裁判所が法律にない新たな国籍取得の要件を創設するものであって国会の本来的な機能である立法作用を行うものとして許されないと評価することは、国籍取得の要件に関する他の立法上の合理的な選択肢の存在の可能性を考慮したとしても、当を得ないものというべきである。」

6、なお、本判決には、5裁判官の反対意見、6裁判官の補足意見、1裁判官の意見が付されている。反対意見を述べた裁判官のうち、甲斐中・堀籠裁判官は、「違憲となるのは、非準正子に届出により国籍を付与するという規定が存在しないという立法不作為の状態なのであ」り、多数意見による国籍法3条1項の解釈は「準正子を出生後認知された子と読み替えることとなるもので、法解釈としては限界を超えている」という。


評釈

判旨賛成

 

 

1 はじめに

本判決は、最高裁による8件目の法令違憲判決であるとともに、法律の規定のうち、人に権利利益を与える要件のうちの一部のみを無効とすることによって、憲法14条1項に違反する差別状態を解消した初めての最高裁判決である。本判決において争点となったのは、第1に国籍法3条1項の合憲性であり、第2に、違憲状態を解消するために、国籍法3条1項の要件のうちの一部を適用せず、その余の要件のみを適用することが許されるかどうかという問題であった。

2 国籍法3条1項の合憲性について

(1)第1の点については、まず①日本国民である父が生後認知した非嫡出子のうち、準正により嫡出子となった者(準正子)は国籍法3条1項により、届出によって日本国籍を取得できるのに対し、非準正子は届出による日本国籍取得ができない、という区別が生ずることの合理性が問題となっている。また、②日本国民である父が胎児認知した非嫡出子は、国籍法2条1号により日本国籍を生来取得できるのに、生後認知を受けたにとどまり、準正もされない非嫡出子は、2条1号による日本国籍の生来取得もできず、また届出による取得もできないという区別が生ずることの合理性が問題となっている。

(2)このうち、準正子と非準正子との区別、すなわち3条1項の準正要件そのものの合理性については、すでに、最高裁判決の補足意見や下級審判決において疑問が呈されていた。

まず、最2小判平成14年11月22日(集民208号495頁、判時1808号55頁)(以下、「平成14年最判」という)の補足意見において違憲の疑義が示されているのが注目される。

この事件は、日本国民である父とフィリピン国籍を有する母との間に出生した上告人が、父から生後認知されたことにより、国籍法2条1号により出生時にさかのぼって日本国籍を取得したと主張して日本国籍の確認を求めた事案である。

 

判決そのものは、「仮に法3条の規定の全部又は一部が違憲無効であるとしても、日本国籍の生来的な取得を主張する上告人の請求が基礎づけられるものではない」として憲法判断を回避している。しかし、亀山裁判官は、準正要件の合理性に疑問を表明する補足意見を付している。また、梶谷・滝井裁判官は詳細な補足意見を付し、準正要件は「日本人を父とする非嫡出子に限って、その両親が出生後婚姻をしない限り、帰化手続によらなければ日本国籍を取得することができないという非嫡出子の一部に対する差別をもたらす」ものであり、「憲法14条1項に反する疑いが極めて濃いと考える」と述べている。

このように小法廷の過半数をしめる3人の裁判官が、3条1項による区別の合理性に疑義を投げかけたことで、事案や争い方によっては3条1項の規定が違憲と判断される可能性が示されたといえる。

この最高裁判決ののち、東京地判平成17年4月13日判時1890号27頁(以下、「平成17年東京地判」という)は「法3条1項は、準正子と、父母が法律上の婚姻関係を成立させてはいないが、内縁関係(重婚的なものも含む。)にある非嫡出子との間で、国籍取得の可否について合理的な理由のない区別を生じさせている点において憲法14条1項に違反する」と判示している。

また、本件最高裁判決の第1審は、非準正子の父母の間に内縁関係が成立しているかどうかを問題にせず、端的に非準正子と準正子の取扱いの違いに着目して3条1項の違憲を導いている。

学説においても、国籍法3条1項を妥当なものとして正面から肯定している説は見当たらず、少なくとも立法論的には改正すべきだとする見解が多数をしめる(学説については、甲斐素直「判批」(本件第1審について)判評577号2頁が詳しい)。

立法論的な批判にとどまらない明瞭な違憲論も有力である。一例をあげれば、君塚正臣「判批」(平成17年東京地判について)判評566号16頁は、「近時の有力説に従えば、非嫡出子であることは、それが『社会的身分』であるかに争いはあろうが、生来の差別に該当するので、厳格審査を施すべきことになろう」という観点から、「国籍法は・・・本件への適用審査の下で法令違憲である」と明言する。

 

かかる判例、学説の状況からいえば、本件判決において、国籍法3条1項に対する違憲判断がなされたのは、決して意外なこととはいえない。本判決に付された少数意見をみても、14条1項違反を否定するのは、3裁判官(横尾、津野、古田裁判官)にすぎず、12人の裁判官は、理由付けに相違はあれ違憲状態が生じていることは認めているのである。また原告が逆転敗訴した本件最高裁判決の第2審についてみても、勝敗を分けた中心的な争点は国籍法3条1項の「一部違憲」という判決手法の可否なのであって、14条1項違反かどうかの判断は回避されていることが注目される。

 

そもそも、前掲の君塚教授の評釈を引くまでもなく、本件のような本人の努力によってはどうすることもできない生来の差別については、その合理性は厳格に判断すべきであろう。また、問題となっている権利利益は、本件最高裁判決がまさに述べるとおり「我が国において基本的人権の保障・・・を受ける上で意味を持つ重要な法的地位」である。かかる差別の理由、及び、問題となっている権利利益の性質、から考えると厳格な違憲審査が要請され、この観点から実態に即して区別の合理性を詳細に検討すれば、違憲の結論にたどり着かざるを得ないのではなかろうか。

もっとも、この点本件最高裁判決の法廷意見は、「合理的な理由があるか否かについては、慎重に検討することが必要」と説示しているにもかかわらず、結局はいわゆる「合理性」の基準(立法目的自体に合理的な根拠があるか、立法目的と立法目的達成手段との間における合理的関連性があるか)に沿って判断している。かかる基準は、君塚教授の批判どおり「合理的なら合憲で不合理なら違憲とする内容は空虚であり、恣意的判断を招く危険が大であり、(憲法14条1項後段―筆者注)列挙事由の意味を無にするものであって」(君塚・前掲「判批」16頁)妥当とはいえない。

したがって、私は、法廷意見の論旨にはおおむね賛成しつつも、より明快に厳格な審査を加えて違憲の結論を導くほうがより望ましいと考える。この点で、泉裁判官の補足意見が「差別の対象となる権益が日本国籍という基本的な法的地位であり、差別の理由が憲法14条1項に差別禁止事由として掲げられている社会的身分及び性別であるから・・・強度の正当化事由が必要であって、国籍法3条1項の立法目的が国にとり重要なものであり、この立法目的と、『父母の婚姻』により嫡出子たる身分を取得することを要求するという手段との間に、事実上の実質的関連性が存することが必要である」という審査方法をとっていることが注目される(なお、本件最高裁の第1審判決も、「準正要件を設けたことを説明し得る十分合理的な理由がない限り、憲法14条1項に違反する」という厳格な規範を立てていた)。

 

(3)それでは、胎児認知を受けた非準正子と、生後認知を受けたにとどまる非準正子との間の区別の合理性についてはどうか。

 この点については、最2小判平成9年10月17日民集51巻9号3925頁(以下、「平成9年最判」という)が、国籍法「3条の規定に照ら」して、国籍法における認知の遡及効を否定していた。前掲平成14年最判は平成9年最判をふまえて、「生来的な国籍の取得はできる限り子の出生時に確定的に決定されることが望ましい」から、国籍法2条1号が「出生後の認知だけでは日本国籍の生来的な取得を認めないものとしていることには、合理的根拠があ」り、よって憲法14条1項には違反しないと判断した。

もっとも、平成14年最判は、国籍の浮動性防止という観点から合憲判断を下したにすぎず、胎児認知子と生後認知子の取扱いの違いに合理性があることを論証したわけではない。それどころか、補足意見では、3条1項の合理性について疑義が述べられているのであるから、平成14年最判も、2条1号の規定が、3条1項とあいまって差別を生じさせる可能性についての認識を有していたといってよいように思われる。

また、生後認知による国籍の生来取得を認めないという解釈も、絶対的なものではなかった。前掲平成9年最判そのものが、その例外を認めている。すなわち平成9年最判は、前婚の嫡出推定が働いているため胎児認知ができず、やむなく、母の前夫との親子関係不存在を確認する審判を得た後に生後認知がなされた事案について、「客観的にみて、戸籍の記載上嫡出の推定がされなければ日本人である父により胎児認知がされたであろうと認めるべき特段の事情がある場合には、右胎児認知がされた場合に準じて、国籍法2条1号の適用を認め、子は生来的に日本国籍を取得する」としているのである。

そう考えると、本件判決が、2条1号の規定によって生じる差別の不合理性を指摘していることは、平成9年、平成14年最判と相反する判断を示したわけではなく、むしろこれらの判決の問題意識を引き継ぐものと評価できるように思われる。 

なお、この点について、田原裁判官の補足意見が「胎児認知子に当然に日本国籍の取得を認め、生後認知子には準正子となる以外に日本国籍の取得を認めない国籍法の定めは、憲法14条1項に違反する」と明言していることが注目される。

 

3 違憲状態解消のための判断手法

では、国籍法3条1項の適用によって生じた違憲状態の解消はどのようにして行うべきか。この点について本判決は「過剰な要件を設けることにより本件区別を生じさせている部分のみを除いて合理的に解釈」する手法をとっている。このような、法律の定める要件の一部を無効とすることによって平等原則違反の状態を救済するという判断手法は、最高裁レベルでは本件で初めてとられたものである。

かかる判断について、反対意見は「法解釈としては限界を超えている」(甲斐中・堀籠反対意見)として厳しく批判する。しかし、この批判に対しては、今井裁判官の補足意見が詳細な反論を展開している。

私見は本判決に賛成である。確かに、国籍法の文言だけを観察すれば、「非準正子が届出という手続によって国籍を取得できないこととなっているのは・・・2条及び4条の必然的結果」にすぎず、3条は「準正子でありかつ同項の定めるその他の要件を満たす者」を「優遇する趣旨なのであって、殊更に非準正子を排除しようとする趣旨ではない」(藤田意見)ようにも考えられる。そうすると、「立法不作為の状態が存在しているにすぎない」とする甲斐中・堀籠反対意見の立場にも、相当の説得力が認められるように思われる。

 

しかしながら、今井補足意見が「国会が同項の規定を設けて準正子のみに届出による国籍取得を認めることとしたことにより、反面において、非準正子にはこれを認めないこととする積極的な立法裁量権を行使した」と述べるように、そもそもある者を合理的理由なく不当に優遇することは、それ以外の者に不当に不利益を負わせることと表裏の関係にあるのだから、平等原則の点からは、不当な優遇自体が差別を構成するものと考えるべきではないかと思われる。

また、前掲平成9年最判が、国籍法「3条の規定に照ら」して認知の遡及効を否定したことからすると、国籍法3条1項の存在そのものが2条1号の解釈に影響し、生後認知された非嫡出子の日本国籍生来取得を否定する論拠とされているといえる。そうすると、3条1項はそれ自体が、「非準正子には国籍の生来取得も届出による伝来取得も認めない」という積極的な意義を有する規定であるといえる。つまり、国会はまさに3条1項の規定を設けることにより、非準正子を国籍の生来取得からも伝来取得からも積極的に排除したというべきであろう。

以上の点からみれば、本件判決が、「立法不作為」を是正するため新たな国籍取得の要件を作り出したものとすることはできない。本件判決は、国会の積極的な立法裁量権の行使によってすでに生じていた過剰な要件を削除するものにすぎず、なんら司法権の限界をこえたものではないというべきである。したがって、国籍法3条1項のうち準正要件を適用しないとする本件判決は肯定できると考える。

 

 

4 展望

最後に、今後想定される国籍法3条の改正立法について私見を述べておきたい。

今井補足意見は「今後、国会が・・・準正要件に代えて、憲法に適合する要件を定める新たな立法をすることが何ら妨げられるものでない」と説き、近藤補足意見は、出生地が本邦内であること、あるいは本邦内において一定期間居住していることなどの具体的な立法の選択肢を提示している。

確かに、今後国会が、これらの要件が必要だと判断すれば、準正要件にかわる新たな要件が付された法改正がなされるだろうし、これこそまさに立法裁量の問題といえる。

しかし、私自身は、法改正において、これらの要件を設けることには否定的である。本件判決が、2条1号によって生じる区別の合理性に疑問を呈したことからすれば、新たな要件を設けて、生後認知を受けた非嫡出子の一部を排除することは、2条1号によって生ずる差別状態の解消という点で疑問が大きいと考えるからである。そもそも日本国外で出生し、日本国外で暮らしている非嫡出子でも、胎児認知を受ければ日本国籍を生来取得しうるのに、生後認知を受けたにとどまる子のみに国内居住要件を課すのは不合理ではないだろうか。

高佐智美助教授は「現行国籍法の根本的な問題点は、やはり2条1号の解釈として生後認知の遡及効が認められていないことにあるといえる」(高佐智美「判批」(平成17年東京地判について)ジュリ1313号15頁)と指摘している。この問題意識に従うならば、新たな立法は、3条1項の準正要件に変わる新たな要件を設定するのではなく、むしろ2条1号を改正し、認知の遡及効を認めるという方向性をもったものであってもよいはずである。

 

準正要件にかわる新たな要件を設けるべきなのか、それとも単に3条1項から準正要件を取り除くべきなのか、さらに進んで国籍法2条を改正すべきなのか。この選択は国会に、ひいては主権者である日本国民に委ねられている。本件判決は、実は「私たち」に対して、誰が「日本国民」であるべきかを選択せよ、将来誰を「日本国」の構成員として受け入れ、あるいは排除するのかを選択せよと迫っているのではなかろうか。