中村合同特許法律事務所

(12) 中村合同特許法律事務所


 

今回は、近年注目されその発展が期待される知的財産分野について、専門事務所として有名な中村合同特許法律事務所に訪問しました。
中村合同特許法律事務所の歴史は古く、その歴史は大正時代まで遡ります。当初から工業所有権の分野を専門とし、弁護士と弁理士が連携しながら、日本の技術発展を法の側面から長年支えてきた事務所です。
同事務所のパートナー弁護士であり今回お話を伺った吉田和彦先生は、弁護士と弁理士両方の資格を持ち、また海外ロースクールへの留学・現地の法律事務所での勤務経験を有する経験豊富な先生でいらっしゃいます。知的財産分野はもちろん他の分野においても幅広く活躍なさっている吉田先生に、ご自身の経験もふんだんに交えながら、知的財産分野の業務や特徴などについて詳しく語って頂きました。

-本日はお忙しい中インタビューに応じていただきまして、ありがとうございます。今回は、吉田先生に、特許法律事務所とはなんだろう、特許を専門に扱う弁護士とは、ということを中心にお話を聞かせていただければと考えております。どうぞよろしくお願いいたします。

 

【法律部門と特許・商標部門
・・・法律部門は知的財産の比重が大きいが法律事務所に変わりはない】

-さっそくですが、まずは中村合同特許法律事務所の業務の概要についてお聞かせいただけますでしょうか。

吉田:はい。中村合同は特許事務所と法律事務所がくっついたような事務所で、弁護士が18人、弁理士が約65人います。ですから事務所全体から考えると法律事務所として考えるのは若干違うのですが、純粋に弁護士の部門(法律部門)がどのような業務を行っているかということでお話しすると、基本的に訴訟とそれ以外のものがあって、それぞれについて知的財産とそれ以外のことについて業務を行っています。この事務所の法律部門が普通の事務所と違うのは知的財産の比重がかなり大きいということで、それ以外は普通の法律事務所と変わりがないといえます。特許部門と商標部門は、主として出願業務に従事しています。

-事務所のお名前からは、知的財産が御専門のように感じたのですが。

吉田:「もっぱら」という意味でいえば、そうではないです。知的財産以外のことも当然扱っております。ただ、一般の事務所と比べると、知的財産の比重が大きいという点では、専門的にやっているといっていいのではないかと思います。

 

【都会の大規模事務所でなくてもよいが・・・】

-特許業務を専門に扱う事務所は全国で30から50ということで数も少なく、東京大阪に集中しているように思われるのですが、やはり大都市以外では特許業務を専門的に扱うことは難しいのでしょうか。

吉田:少なくとも、客観的事実として、大都市以外で特許を専門的に扱っている事務所は少ないと言えると思います。おそらく、お客さんが少ないということが理由の一つにあげられますね。あとはやはり、数年前に特許訴訟については東京と大阪の地裁が専属管轄注1になり 、なかでも東京の比重が非常に大きいので東京で特許業務を扱うことはいろいろ便利であることは間違いないと思います。

-そうすると、クライアントさんが地方から東京にいらっしゃったり、先生方が東京から各地方に出張されたりということが多いのでしょうか。

吉田:そうですね。お客さんが地方から見えることはよくあります。お客さんのところに出張で行くのは特別の理由があるとき、つまり工場を見なければならないとか、動かせない物を見なければならないとか、そういう理由があるときです。

-ちなみに、お客さんは東京の方が多いのでしょうか。それとも全国からいらっしゃるのでしょうか?

吉田:そうですね、北海道や沖縄のお客さんもいらっしゃいますが、圧倒的に東京周辺のお客さんが多いのは間違いないですね。東京が経済の中心であるからでしょうけど。首都が移転したらどうなるのかと思いますけどね。そうすると、知財高裁注2がひょっとしたら移るかもしれないですが、それでも東京が多いことには変わりないでしょうね。

 

 

-特許業務の取り扱いについて、中村合同特許法律事務所のような大規模な事務所のほうが小規模事務所より有利ではないかと思うのですが、具体的に有利不利な点などがあれば教えていただけますか。

吉田:有利不利については何とも答えにくいし、実際に小規模な事務所で一人二人でやっておられて非常に優秀な方もいらっしゃるし、小規模な事務所だとできないということはないですね。ただ、産業財産権の裁判、特に特許権の場合が顕著ですが、実際に特許権侵害訴訟が起きたとするとそれに対して無効審判請求注3がなされたりその無効審判請求に対して訂正請求注4がされたりするなど、事件が広がっていくということがありえて、そうするとはっきり言えば人手がいるわけです。それに対象の特許の件数、製品や方法が増えるとかなり物理的に大変になるのでそれをひとりで全部カバーするのは難しいですね。そういう意味だと大規模な方がいいという面はかなりあると思います。

-そうすると、大規模事務所の方がいいというのは人数的なものが理由で、各先生方が各分野の専門に分かれているのでという理由ではないということでしょうか?

吉田:各弁護士がみんな一通りやりますので専門分野に分かれているということはあまりないですね。例えば比較的、商標とか不正競争を多く扱う弁護士はいますが、たまたまそういう依頼者を多く扱ってきたということです。

 

【知財事件は事務量も多い】

-先ほどのお話では、特許訴訟では人手がいるということですが、それは、先生ご自身が細かな調査をしたり、準備書面を作ったり、ということで弁護士さんの数が必要なのか、あるいは調査をしたり、書証や証拠を集めたりするにあたって、アシスタントするパラリーガルの方等が多くないと難しいというということなのでしょうか。

吉田:それは両方ありますね。
日本の法律事務所の秘書は一般的に非常に優秀で、資料の整理をはじめかなりのことをやっているのですよ。また、ちょっと話は逸れますけど、裁判で必要なコピーの枚数も大量なのです。知財の裁判というのはいろいろな過去の技術が問題になったりすることもあって、結構大量の証拠がいるのですね。不正競争の案件では、周知性注5を立証するために大量の証拠が必要になることがあり、たとえば証拠番号が500号証ということもあるのです。さらにその一個一個に枝番がついていたりしてものすごく多いこともあってね。特許の案件だと、例えば明細書の記載を引用するのも長くなるし、また、実際に議論をする部分も長いので、準備書面も結構長くなります。それらの資料は、裁判所に出す分と担当弁護士やお客さんに渡す分等を合わせると、十部以上同じものを作ることになるのが普通です。これらを正確に準備するのも大変です。その意味でも結構スタッフが必要ですよね。
また、たとえば訴訟の対象特許が5件あったら、弁護士1人で対応するというのはしんどいのではないでしょうかね。



注1 専属管轄
民事訴訟法6条参照。土地についての管轄は、本来被告の住所や請求の性質によって決定される(4条、5条)が、特許権等に関する訴えについては、それが東日本である場合には東京地方裁判所が、西日本である場合には大阪地方裁判所が第一審として排他的に管轄を有するとされている。

注2 知財高裁
知的財産高等裁判所。知的財産関連の訴訟の審理には技術的な知識が求められるので、そうした事件を一極的に扱うために、2005年東京高等裁判所の特別の支部として新設された。

注3 無効審判請求
特許法123条1項、2項参照。侵害者とされた側が、カウンターとして無効事由が存在することを主張する場合に用いられる。特許権の設定をしたのが特許庁長官であるにもかかわらず、請求の相手方は特許権者であるとされる。一度設定された特許権に関し、最も利害関係を有するのが特許権者であるからである。

注4 訂正請求
特許法134条の2第1項。同様の制度として、無効審判が係属していないときにされる訂正審判請求がある(特許法126条1項)。いずれも特許権の成立後に、その内容を変更するための手続。特許権の一部に無効事由などが存在する場合等に、その部分を削除して特許無効の主張を崩すため等に用いられる。補正と異なり、特許庁に出願が係属していない場合に可能である。

注5 周知性
不正競争防止法2条1項1号は、人の業務に係る氏名や商号、商標等が需要者の間に広く認識されている場合には、それらと同一もしくは類似した表示を使用して他人の商品や営業と混同させる行為を不正競争であるとしている。この場合に、問題となる表示が需要者の間に広く認識されているかどうかを問うのが周知性の要件である。

 

【専門分野としての知財】

-特許に関する業務には、いわゆる理系方面の知識が必要になるのではないかと思うのですが、吉田先生が法律分野の中でも知的財産部門、中でも特許法を専門にした理由をお聞かせください。

吉田:まず、修習の時に弁護士でやっていくためには専門をもったほうがいいということを悟って、どういう専門分野がいいかということを考えたのですね。私が修習したのは1988年からで、当時、情報化社会になるといわれていたので、これからは情報を守る法律がいいのではないかなというのがあって、情報を守る法律というと、どうも無体財産権がそれらしいというのがわかりました。当時は知的財産という言葉は私が知る限りではなかったのですけど、今で言う知的財産と同じ意味ですね。それで無体財産をやる事務所がいいのではないかと思ったということですね。

-その際に、無体財産分野を専門にすると馴染みのない分野の知識が必要になるという心配はありませんでしたか?

吉田:詳しく覚えてはいませんけれど、理系の知識という面では、少なくとも今やっているほど技術に関連する仕事を多くするという意識はなかったですね。

-それは、どちらかというと著作権の分野などに興味を持っていたということでしょうか?

吉田:どうでしょうね。そうではなかったような気もしますね。

 

【事務所選択の動機・・・知財、国際的、訴訟】

-では、特許業務を専門にする事務所のなかでも、なぜ中村合同特許法律事務所に入所されたのかをお聞かせください。

吉田:今申し上げた通り、無体財産の仕事をしたかったというのが第1です。第2に、当時かなりボーダーレス・エコノミーということが言われていて、その傾向はますます進むことがかなり明らかだったので国際的な案件を扱いたいなということがありました。そして、それとの関係で英語の仕事はできるようになったほうがいいと思い、国際的な案件を扱って、英語の仕事をする事務所がいいなと思っていたのです。それなら渉外事務所に行けばいいのではないかとなるのですが、当時渉外事務所は裁判をやらないイメージがあったのです。

 

これが第3の理由と関係するのですが、当時は法務部が脚光を浴びるようになってきた時代で、優秀な人が法務部にどんどん行くという風潮が出てきて、戦略法務注6とか予防法務注7とか言われだした時代だったのですね。そうすると、優秀な友達が会社に行って法務部に行くということになって、それだと弁護士でなくても法律の仕事ができるのではないかという思いがあったのですね。結局彼らにできなくて私にできることが何かと考えたときに、弁護士資格がなければできないことというと、はっきりしているのは訴訟代理なのですね。そこで、訴訟に関する仕事もできるようになったほうがいいのではないかと思って、訴訟の代理もする事務所に行きたいなと考えました。そうすると、①無体財産もやって、②国際的な案件もやって、当然その結果英語もついてきて、③訴訟もする事務所ということになると、ある程度の規模のある事務所というのは非常に限られていて、そのようなことを考えていたときに、弁護士である父の紹介で、たまたま中村合同と縁があったというわけです。

 

-学生時代から英語や海外に興味があったのでしょうか?

吉田:興味がないことはなかったですが、個人的には私は国内的な人間で、日本的な人間なのですね。日本文化を深く愛しているし、そんなには興味がなかったような気がしますね。

-それでも国際的な案件や、英語を使う仕事を志望したのは、将来扱うことのできる仕事の幅が広がるといった理由が大きかったのでしょうか?

吉田:そうですね、そのとおりです。ただ、英語は嫌いではなかったですね。



注6 戦略法務
経営戦略に法務ビジネスを積極的に取り込んでいくこと。例えば、敵対的買収防衛とは何か、その導入の経済的効果は、具体的な方法はということを法律の観点から分析して、それを経営に対して提言していくこと。

注7 予防法務
取引に存在するさまざまなリーガルリスクを発見、分析そして排除または最小化すること。

 

【留学したほうがよい理由・・・技術・ブランドに国境はない、留学しないと気後れする】

-ご経歴を拝見したのですが、吉田先生はアメリカのハーバード大学に留学していらっしゃいますね。それも、先ほど吉田先生が知的財産分野を専門になさった理由と関係があるのでしょうか。

吉田:それはやっぱり、留学に行かないで済ますのは難しいのですよ。知的財産を取り扱うとなると、技術やブランドに国境はないので、国際的な仕事をすることが多いのです。ものすごく頭がよくて、かつ、ものすごく英語もできるということならいいのですが、普通の人は留学しないと国際的な仕事をするのは、ちょっと難しいですね。

 

自分が仕事をしていく上で、たとえば国内の仕事しかしないと決めれば、それはそれで問題はないし、例えば法律がすごく良くできて、日本の依頼者から頼まれて、日本の国内の訴訟だけやっていくというのであれば全然留学する必要はありません。でも、そこまで法律がよくできるわけではない人はね、いろいろなことができたほうがいいと思います。国際的な仕事もやったほうが幅も広がりますから。そうすると、留学を考えることも必要になってきます。留学して何かができるようになるというわけでもないのですが、気持ちの問題としても留学しておかないと厳しいような気がします。留学する前は、留学帰りの人に対する気後れがありました。留学すると多少は図々しくなるというか、大してうまくなっていないのですけれど、英語で一応言いたいことは言えるようになる。多少は留学前より、米国人の話がわかるようになった気がします。特にうちの事務所は外国のお客さんも多いのです。アソシエイト注8 のころはそうでもないですけれど、例えば10年目くらいになると、外国のお客さんと電話で話したりとか、会議で普通に話をしたりせざるを得ない状況になります。その中でやっていくためには英語で仕事ができるほうがいいし、そのためには普通の人は留学をしないと難しい面があると思います。

 

【優秀な学生との出会い】

-なるほど。ところで、留学中の楽しかった話や、苦労された話はありますか。

吉田:苦労した話はいっぱいあるような気がしますけど、まあ、一つは、ほとんど聞き取れなかった授業があって、そのオランダ出身の教授の講義で聞き取れたのはLet me put it this wayっていうことだけ。あとはもうぜんぜんわからないのですよ(笑)。単語は聞き取れるのですが、文が分からないのですよ。アメリカの学生はさすがに聞き取れていましたけどやっぱり聞きにくいって言っていましたね。でも、外国人はみんな聞き取れていないからいいやと思って勉強していましたね。まあ多分、いろんな苦労があったかと思うのですけれども、すぐ思い出したのはそのことですね。楽しかったということもたくさんありますが、皆さんに関係のあるようなことをいうと、ハーバードには、全米でもかなり優秀な学生が集まっていたことには間違いがなくて、皆さんもご承知の通り、米国のロースクールではいわゆるソクラテスメソッドが採用されていて・・・教授が質問して学生が答えるという授業のスタイルですが、みなさんもそうなんでしょう?

-そうですね。

吉田:それでね、教授が結構難しい質問をする訳ですよ。しかも、アメリカのロースクールは日本のロースクールと違ってみんな入学前に法律の勉強をしたことがない。最初のカレッジの4年間では基本的に法律は専攻できないのです。われわれLL.M.注9の人が取る授業の多くは、普通のロースクールの2年生か3年生が取るのと同じ授業なのです。が、それでも教授が結構難しい質問をしても、そうした優秀な生徒は結構うまく答えるのですよね。意地悪な質問とかしてもね、うまく何とか切り返すわけ。いや、たいしたものだな、と思ってね、感心して聞いていましたね。もちろん、うまくいかないこともありますよ。でも、感心したこともよくありました。
これは、主としていわゆるJ.D.(Juris Doctor)っていうコースの学生の話で…J.D.というのは普通の国内の学生が行くロースクールのコースで、一応その後LL.M.にいくこともできるのですが 、アメリカ人でLL.M.に行く人はあまりいないのですね。LL.M.というのは、われわれみたいに外国で勉強した人が、アメリカのロースクールでたった1年ですけれど勉強して、一応各州の司法試験を受ける資格をもらえるコースなのです。だから、LL.M.では、基本的に外国人が多くて、ハーバードでは少なくとも当時50カ国から150人くらいが来ていて、中でもすごく少ない数しか来ていない国からは、国を代表するような秀才が来ていました。日本人の中にもすごく頭のいい人がいるわけですよ。そういう人と交われてよかったな、と。感慨深いですねそれは。

-そうした方達とはいまでも交流が続いていらっしゃるのですか。

吉田:多少はありますね。日本人は結構・・・まあ結構とはいっても、年に一回会うか会わないかですけどね。例えば、韓国から誰それが来るから、集まろうというようなのが時々あります。

-では、一緒にお仕事なされたりとかは?

吉田:1人いますが、それは、その人も知的財産という特殊なことをやっているからですね。ハーバードの特にLL.M.の学生で、特許が専門という人は非常に少なくて、たまたま韓国で1人いるのでその人と一緒に仕事することはありますね。また、J.D.の学生だったアメリカ人の1人が特許に関する業務をしており、話したりすることがあります。

-留学との関連で伺いますが、吉田先生はハーバード大学修了後にアメリカの法律事務所に入所されていらっしゃいますね。そのアメリカの法律事務所で勤務することになったきっかけは何でしょうか。

吉田:きっかけは、皆さんそうでしょうけど、基本的に事務所同士の関係があるかどうかという点で決まるのですね。事務所同士の関係も何も無いのに行くってなかなか大変なのですよ。特にアメリカに行ってから探すというのは至難の業で、もちろん実際にそれをした方もいらっしゃるのですけど、見つからなくて日本に帰ってきた方もいらっしゃいます。私の行ったところは、当時日本人に対する研修がかなり充実していたところで、毎年日本人の客員弁護士を受け入れていたところだったので、かなり安心感がありました。ただ、最初に入所した事務所はあまり特許を扱っていなかったので、その後に3ヶ月ばかり別のジェネラルファーム注10の知財の部門にいました。留学途中でなんとかそういう機会を持てないかな、と思っていたところ、中村弁護士が紹介して下さったのです。訴訟に関する業務の内容の膨大さと細かさが身にしみて実感でき、また、特許出願の中間処理もやらせてもらえて、よかったです。

-自分で積極的に動くことも大切ということですね。ところで、外国の法律事務所で働くとなると、国のアイデンティティみたいなものが絡んできて、海外で働くのは難しいという話を聞いたことがありますが、そのような障害を感じることはありましたか?

吉田:どうですかね。それは結局、気持ちの問題なのではないでしょうか。日本の弁護士でも、日本にいながら、外国企業の代理もするし、外国の会社の方々や弁護士の方々と話す機会もあるので、多少気持ちに慣れがあるのではないでしょうか。そういう意味では、大きな障害を感じたことはなかったように思います。



注8 アソシエイト
自分で事務所を持っている弁護士ではなく、ある事務所の従業員として勤務する弁護士をいう。

注9 J.D.とLL.M.
アメリカのロースクールでは、国内の一般の学生向けのJ.D.のコースと、留学生向けのLL.Mのコースを用意するところが多い。基本的には、J.D.コース相当の法学教育を受けた者(法的素養のある留学生もこれに含まれる)がLL.Mに入学する建前となっている。ただ、J.D.を修了すれば司法試験を受けることは可能であるため、アメリカ国内の学生がその後LL.M.に進学することは少ない。

注10 ジェネラルファーム
業務範囲の広い弁護士事務所をいう。

 

【技術についての理解・・・67と68の違い】

-それでは、実際の業務について、いくつか伺いたいと思います。まず、特許業務を扱う弁護士の皆さんには、専門技術についての理解というのがどの程度求められるのかをお聞きかせください。

吉田:準備書面が書ける範囲、あとは、口頭でポイントが説明できる範囲、ということではないでしょうかね。裁判官の方々に、「なるほど」と思っていただくのが目的ですから、それに必要な範囲ということでしょうね。

-ということは、技術を完全に理解できる程度までは必要ないということですか。

吉田:それは、案件にもよりますね。それに、文献を読んでほぼ完全に理解できることもあるし、わからないこともあります。よく私がいう例で、当たっているかどうかわからないのですが、どうも発明というのは、普通は0のものを100にするのではないのです。67のものを68にするのが多くの発明のようです。技術というのは、多くの場合、長い歴史があって、いろいろな発明や特許があって、今までの蓄積を少し前進させたというのが多いような気がします。そうすると、1から67まではなかなかよくわからなくても、極論すると67から68の違いというのは結構よくわかるのですよ。だから、そこで勝負がつくのであれば、そこだけわかっていればいいということもあるような気がします。ただ、そうはいっても、1から67までも分かっていたほうがいいことには違いないのでしょう。それが分からない、腑に落ちない、ということはあります。でも、何十年も研究されてきたことが、その時に少しかじるぐらいで、完全に分からないというのはある程度しかたがないことではないでしょうか。

 

【意思疎通がうまく行かない一つの理由・・・文献にどう記載してあったかの勝負】

-技術について、専門家、例えば弁理士の先生や他の方々との意思疎通が必要になることもありますよね。そうした意思疎通が上手くいかないというようなことはあるのでしょうか。

 

 

吉田:弁理士さんと意思疎通が上手くいかないということはまずないですね。言っているのが速すぎるとか、端折っているからわからないということはあるかもしれませんが、それは順を追って聞けばわかることで、意思疎通できないということはないです。
あとは、発明者とか、発明者に割と近い技術者の人とコミュニケーションが上手く取れないということは、ない訳ではないのですが、それにはいろいろな原因があります。一つの原因としては、これは、どちらかと言えば、こちらの話が通じないということなのですが、知的財産の裁判というのは、何が科学的真実かというよりは、出願時の明細書注11の記載とか、出願前の文献に何が書いてあったかということで決まることが結構多いのですよ。だから、こういう風に書いておけば認められただろう、ということでも、書いてないと認めてもらえないということはあります。例えば、技術者からするとこんな実験をやっていたはずだということがあったとしても、実験をしていたことを証明できなければ、相手方の主張がそのまま通ってしまうということはあります。その辺の理解を得るのはなかなか難しいですね。出願時の明細書に書いてない、というのも結構あるのですよ。今更言われてもいたしかたないということです。出願した際の明細書に書いてないといけないのに、それに書いてないことを言われて、これでは裁判所には通らないということが結構あります。
また、技術的なことでいうと、その技術について会社の中でも一部の人しか知らないということがあります。当然そのような場合は事件の内容が分かりにくいことも多いです。
ただ、この仕事では同じお客さんの仕事を何回もやるということもあります。前にやった事件についての知識が結構役に立つというのはよくあることです。だから、ある程度はわかるのかな。
言い忘れたのですが、技術の中には、当然分かっているだろうというようなことでも誰にも分かっていないということがあり、そのことが話をわかりにくくする原因の一つになっていることもあります。でもそれは、皆わからないからしかたがないという話なのですけれどね。例えば、結晶を工業的に晶析注12する際、かきまわしながら行うことが常道なのですが、ある結晶については、かきまわさないで晶析したほうが結晶は大きくなるし、いろいろ取り扱いやすくなるということで、このような晶析法が特許になりました。私は、かきまわさないということから、自明の理由により大きな結晶になるのかと勘違いし、文献を見ても考えてもその理由がわからず、もやもやした気分が続いたことがありました。結局、なぜ、かきまわさないと大きいよい結晶が取れるのかは、実はわからないという話でした。
先ほどの話に、若干付け加えると、何で話が通じないのだろうかというときに、会社の人が誰かの意向に従わなければならないことが理由である場合があります。そうした状況が段々分かってくることがあるのですが、それで上手く話が進まないということもありますね。

 



注11  明細書
特許出願のための資料のうち最も重要となるのが、特許請求の範囲と明細書である。そのうち、特許請求の範囲とは、出願人が特許を受けようとする部分をピックアップしたものである。一方、明細書とは、特許請求の範囲に記載された発明を詳細に解説するものである。特許請求の範囲に記載された発明が何を解決しようとしているか、またその発明の具体例などが記載される。

注12 晶析
結晶化と同義。均一な溶液から固体結晶が生成する、自然な、または人為的な過程である。

 

【知財事件の特徴・・・現時点でどのように考えるべきかがポイント(過去の事実の証拠による認定という要素がやや稀薄)】

―なるほど。次に、訴訟を起こす、もしくは訴訟に巻き込まれた場合の対処について伺いたいと思います。特許に関する訴訟において、請求を立てるときに、何か他の訴訟にはない特徴というのがあるのでしょうか。

吉田:請求の立て方には特に特徴はないと思います。基本的には差止請求と損害賠償請求です。まあ差止めは、民事事件の中ではちょっと珍しいかもしれませんけど、特に変わったところはないと思います。特許とか、知的財産の事件の特徴的なところというのは、過去の事実の発見、あるいは過去の事実を証拠でもって認定するというよりは、判断資料は出願前のものであったとしても、現時点でどのように考えるべきかというのが争点なのですね。そこで証拠についても、例えばこれを証明するためにはどういう証拠を作ればいいのか、例えばこういう実験をして、こういう報告書を出せばいいのではないか、こういう陳述書を作ってもらえばいいのではないか、つまり、どういう事実が問題でそれを証明するためにどういう証拠を今から作ればいいかということや、今特許権の範囲をどういう風に解釈すべきかという点から考えられる。一般の訴訟にはない醍醐味として、その点が非常に面白いなと思っています。

―次に、実際に訴訟を提起しようとする場合に、裁判管轄について、複数の国で訴訟提起できる場合があると思うのですが注13実際どちらの国で提起するかという点で考えるべきこと、考えていることなどはありますか。

吉田:それはまず、依頼者がどの国の依頼者か、というのがありますよね。基本的に自分の国でやった方が色々な意味で有利なのですが、仮に日本の依頼者の仕事をしていたとしても外国でやった方がいい場合というのもありえます。例えば日本とアメリカということを考えると、お金をあまりかけないのであれば日本でやった方がいいに決まっていますし、お金をかけても相手にプレッシャーをかけたほうがいいという場合にはアメリカでやった方がいいですね。その他にも例えばアメリカのどの州でやったほうがいいとかね。少なくとも、日本のほうが今までは特許権者の勝率が低かったので、そういう意味でアメリカでやった方がいいという場合はあるでしょうね。

―そのようにして日本で実際に訴訟を提起したにもかかわらず、その裁判を取り仕切る裁判官の方があまり技術について詳しくなかったというような場合に、アピールの方法を変えるようなことはあるのでしょうか。

吉田:これは期待した答えになっていないかもしれないですけれど、特許の案件は東京地裁と大阪地裁の専属管轄で、知財専門の人が必ずやるのですね。だから、裁判官が初めて特許事件に接したということは普通はないのです。あと、調査官もほとんど特許庁からの出向の審判官なのですね。裁判官は技術的バックグラウンドのある調査官に何でも聞けるので、かなり技術的なことでも理解されているのではないかなと思います。

―なるほど。先生は最高裁での勝訴判決を得た事件もご担当されていると伺ったのですが、通常の事件の場合と最高裁に上がった事件の場合で、訴訟の進め方に特徴はあるのでしょうか。

吉田:抽象的に言うと、最高裁に上がる事件というのはいっぱいあるので、その中で高裁が間違えていたかもしれないというだけでは取り上げてもらえないのではないでしょうか。だから、このまま確定したらまずい、つまり看過しがたい重要な法律問題があるということをアピールすることがポイントですけれど、まあ運ですよね。

―それでは次に依頼者との関係についてお聞きします。依頼者の方は大企業からの依頼が多いと思うのですが、小さな町工場など、日本の現場で頑張っている技術ですとか、そのようなものを扱うということはあるのでしょうか。

吉田:中小企業のお客さんというのも当然いらっしゃいますね。

―そのようなお客さんの依頼を受ける際、向こうがこれから成功するか分からない以上、先生方への依頼にかけられるお金があまりないということもありえると思うのですけれど、先生ご自身の興味というか、これは皆に知ってほしいから、という理由で利益抜きで受ける案件などはありますか。

 

 

吉田:ないことはないかもしれませんが、むしろ、知財事件ではなく、個人が困っているときに、そのようなことはありますね。

 

―それは、弁護士の社会的活動とはまた別の形で、個人的に、交渉次第ということですか。

吉田:まあそれは、かなり気持ちの部分の方が大きいのではないですかね。

―なるほど。次に、依頼者との間に成立する守秘義務について伺いたいのですが、特許分野における守秘義務の特徴というのはありますでしょうか。

吉田:私が思うには、ですけども、守秘義務は弁護士の命みたいなものなので、知財だからどうこうということはそれほどないと思います。まあ、出願前の技術情報は非常に重要な秘密情報でしょうが。

―ちなみに、情報が流出することを恐れて依頼者が先生方への情報の提供を渋り、それによりうまく信頼関係を作れないというようなことはあるのですか。

吉田:依頼者や秘密情報の内容如何によっては、信頼関係がなくなるところまではいかないですが、あるかもしれないですね。また、裁判所に対しても、今は秘密保持命令注14というのがあるのですが、まだそれほど機能してないので、中々秘密情報を気楽に出せる、という感じではないのですね。それで、こういう主張をしたほうがいいのに、とか、こういう証拠を出したほうがいいのにと思うことはなくはないです。でもそれはやっぱりしかたがないですよね、一定の範囲でやるべきものですので。まあ、裁判に勝つより世の中に情報が出るほうがはるかに困るということであれば、極論すれば、われわれとすれば当然出さないということになるのだろうと思います。

―依頼者の方について、例えば医療訴訟などでは患者側の弁護士、あるいは医療者側の弁護士という棲み分けがなされていると思うのですが、実際先生がご担当なさっている特許訴訟でそのような棲み分けはなされているのでしょうか。

吉田:特許訴訟の多くは、メーカー同士で、訴えたり訴えられたりという話なので、どちらもやることになりますね。日本では職務発明注15の事件については会社側の代理人になることが多い事務所や弁護士はいるだろうと思います。ただ、職務発明以外にそういった傾向はあまりないと思います。



注13 裁判管轄は各国の国内法によって定められるから、一つの事件につき複数の国の裁判所が管轄を持つということがありえる。

注14 秘密保持命令
特許法105条の4~105条の6等。特許権侵害訴訟等において営業秘密について陳述する必要のある場合には、裁判所が秘密保持命令を発することができ、当事者等に対する尋問を非公開にできる。

注15 職務発明
特許法35条参照。簡単に言えば、法人などの従業者がその職務上なした発明のことである。職務発明に該当する発明に関しては、発明以前に包括的に特許を受ける権利や特許権を使用者に移転させる合意をすることができるが、従業者はその代わりに法人等から相当の対価の支払いを受ける権利を取得する。

 

【米国での資格が役に立つ場面】

―先生は留学を経てアメリカの弁護士資格も取得されていますが、その資格が役に立っている場面などがあればお話しいただけますか。

吉田:資格のあるなしという点だけで考えると、アメリカの裁判に絡む場合や、あるいはアメリカでの訴訟が予想されるような事件に巻き込まれた場合に、当方の依頼者が依頼しているアメリカ人の弁護士から資格をもっているかどうか聞かれることがあります。なぜ聞かれるかっていうのは理由があって、attorney-client privilege って分かります?

―ちょっと聞き覚えのない言葉ですね。どのような意味なのですか?

吉田:アメリカの訴訟は、日本の訴訟とは違うところがいっぱいあるのですけど、大きく違うものの一つが、ディスカバリー注16という制度なのですね。ディスカバリーという制度は、特に訴訟の相手方の請求があると、こちら側が持っているほとんど全ての情報を出さなければならないのです。その中には当然都合のいいものも悪いものもあって、もし都合の悪いものを隠したことが後でわかると、大きな不利益になるのです。ただ、出さなくていい理由の一つに弁護士依頼者秘匿特権注17というのがあるのですね。それがattorney-client privilegeです。 この場合の弁護士というのはアメリカでの資格がない人でもいい可能性がありますが、米国の裁判で米国連邦法が問題になっている訳ですから、米国のどこかの州の資格を持っていれば、attorney-client privilegeが働くattorneyに該当し、依頼者とのやりとりが開示義務の対象からはずれることがはっきりする訳です。アメリカ人の弁護士は、「訴訟の争点が一つ減る」と言っていました。また、訴訟手続に関連して、秘密情報に触れられる「外部の弁護士」に該当しうることが明確になります。場合によっては、実際に訴訟代理人になったりするということもありうる。それは名前だけかもしれませんけどね。

―それはつまり、先生ご自身が向こうの法廷に立つということですか?

吉田:法廷に立つことはまずないのではないですかね。ひょっとしたら、座るくらいはあるかもしれない。でも、実際に弁論するということはありえないですね。

 

【印象に残っている事件・・・知財の事件とスポーツの事件】

―これまで扱われた事件の中で、特に印象に残っているものはありますか。

吉田:まず、弁護士なり立てのころの話からしますと、私は知的財産のほかにスポーツ関係の仕事もやっているのですけれども、その中の一つに、プロレスラーが別団体から引き抜かれたという事件があって、それは私が初めて尋問をした事件ということもあり、非常に思い出深いです。私が天龍源一郎注18選手に対し反対尋問をしたのですが、法廷の当事者席で私の隣で座って見ていたジャイアント馬場注19さんがとても喜んでくれました。
あとは、たまたま担当していて、最高裁で高裁の判断をひっくり返してもらった事件が2件(最判平成5年10月19日判時1492号134頁注20、最判平成20年7月10日民集62巻7号1905頁注21)あります。2つとも特許の事件でした。いろんな巡り会わせで偶然そうなったのかなと思いますけど、やっぱり滅多にないことなので非常に印象に残っています。まあ、お客さんのことを考えると、本当は何の問題もなく地裁や高裁で勝って確定するか、あるいは和解するのが本当は一番いい訳です。最高裁で逆転したということは高裁で負けているという事なので。

 

あと、東京地判平成12年8月31日 の事件なのですけれど、これも印象に残っている事件ですね。これはいわゆる使い捨てカメラ(レンズ付きフィルム)に関する事件です。使い捨てカメラの流通形式は、特許権の対象となっている使い捨てカメラを権利者が売って、最終的にそれをユーザーが買って使うというものです。そして所有者であったユーザーは、カメラをカメラ店等に現像に出すので、カメラ本体は普通ユーザーに戻ってこないのですね。その本体を、リサイクルするという環境面からも、コスト面からもメーカーは一生懸命回収したい。ところが、本体を現像所とかそういうところからかき集めてきて、フィルムを詰め替えてそれをそのまま売る業者がいっぱいいたのですよ。そのような業者を訴えたという事件なのですが、何が争点となるかというと、中古のものを修理して売っているのと同じではないかという話になるのです。極論すると、車のタイヤを換えて中古車を売っているのと同じで、フィルムを入れ替えてそのまま流通に回しているだけで、どこが悪いのか、という話になりかねない。これは基本的にはいわゆる消尽論注22の及ぶ範囲がどこまでか、という話なのですけれども、それについては全くといっていいくらい先例がなかったので、どういう要件で、侵害になったりならなかったり、あるいは特許権の行使ができたりできなかったりするかというのをゼロから考えたのです。そういう全く先例がない問題で、どういう風に要件を考えればいいかということをゼロから考えられたというのは、非常に面白い経験でしたね。レンズ付きフイルムの裁判はいくつかあったのですが、いずれも最高裁までいきませんでした。もし、相手方が最後まで争えば最高裁にいった可能性があり、そうすれば、キヤノン・インクカートリッジ事件注23より先に最高裁判決が出た可能性があったのですが、結局、こちらが実質的に全勝した形で終わったので、これはこれでよかったと思っています。ちなみに、キヤノンの最高裁判決の考え方は、当方がこの事件のときに原告の主張として提唱した考え方と、見かけはかなり違うのですが、実質的な考慮要素やその理由付けは、かなり共通しているように思います。
あとはキルビー事件注24というのがあります。平成12年4月11日に最高裁判決が出された件です。私が関与していたのは留学に行くまで、つまり高裁の途中までで、しかも私は末席に名を連ねていたに過ぎなかったのですが、有名になった事件で印象に残っています。日本のほとんどの半導体の会社がライセンスをとっていたのに、ある1社がライセンスを取らなかったので裁判になったのです。半導体というのは本当に大きな産業なので、訴訟を起こした時点での潜在的ないしは波及的な経済効果は非常に大きかったのです。これほど大きな事件は生涯めぐり合わないだろうなと思いましたし、実際扱ってないですね、今のところは。そういう事件に関われたのは非常によかったですね。キルビーさんにもお会いできましたしね。後にノーベル賞をお取りになりましたが、とても謙虚な方でした。日米の一流企業同士が、優秀な代理人とともに全力でがっぷり四つに組んで戦えば、間近にいる者も学ぶものは大きいです。ただ、その特許は、日本の多くの半導体メーカーによる異議申立てを克服して特許になったもので、日本のほとんどの半導体メーカーが最終的にライセンスを受けていたものでしたから、後で、高裁判決で「無効とされる蓋然性がきわめて高い」と判断されて、留学中に高裁判決を見て驚いた記憶があります。具体的な無効理由も、権利濫用という法律構成も、原告の主張とは異なったものでした。他にも印象的な事件はありますが、今日は、この程度にいたします。

 



注16 ディスカバリー
米裁判所における情報開示手続。

注17 弁護士依頼者秘匿特権
弁護士と依頼人との間のコミュニケーションが十分に行われるようにするため、これを非公開のものとしておくべきとする米法上の理念。

注18 天龍源一郎
日本の人気プロレスラー。大相撲出身で、西前頭筆頭まで出世したが、昭和51年に全日本プロレスに入門。平成2年に全日本プロレスを退団し、SWSに移籍した。

注19 ジャイアント馬場
日本を代表するプロレスラー(故人)。新潟県の三条実業高校で投手として活躍しているところを読売巨人軍にスカウトされ、昭和30年に同校を中退して同球団に入団した。その後、日本プロレスに入団し、日本を代表するプロレスラーになった。昭和47年に全日本プロレスを創設し、平成11年に、同社の社長で、現役レスラーのまま亡くなった。

注20 特許判例百選(第三版)28事件、58頁参照。

注21 特許判例百選(第三版)61事件、128頁参照。

注22 消尽論
特許権者の意思に基づいていったん特許権の対象となっている物が譲渡された場合には、これに対して特許権は及ばなくなるとする理論。従って、その物の所有者が特許権者の了解なくこれを売却したり、貸与したりすることもできるようになる。

注23 キヤノン・インクカートリッジ事件 最判平成19年11月8日民集61巻8号2989頁、「法の支配」150号65頁参照
被告が使用済みの原告製のインクタンクにインクを詰めなおし、中国から輸入販売をしようとしたことに対し、原告が特許侵害を申し立てた事案。消尽論は、特許製品が譲渡時の品質・性能を維持したまま再譲渡・使用されることを前提に適用されるが、本件ではインクを詰めなおす行為がこの前提を満たしているかが争われた。

注24 キルビー事件
最判平成12年4月11日民集54巻4号1368頁参照。半導体に関する発明の特許権者であった債権者に対して債務者がライセンスの取得を拒んだために債権者が仮処分命令の申立てを行ったが、他方、同じ日にその債務者が、原告として、被告(債権者)に対して、特許権を侵害していないとして債務不存在の確認請求訴訟を起こした事件。

 

【実は司法試験に受かる勉強が重要では】

―法学教育についてのお話に移りますが、法科大学院生に向けてこれだけは勉強して欲しいということがありましたらぜひ。

吉田:知財を目指すという意味でいうと、知的財産法は、民法と民事訴訟、それに行政法の特別法みたいなものなので、民法・民事訴訟法とできれば行政法をよく勉強するというのが一つだと思います。
二番目には、実務家になるといろいろなことがあるし、もちろん仕事だけしているわけではないから、まとまった本を読むというのは難しいのですよね。いわゆる体系書を読むということはやっておいた方がいいと思います。あとはできれば体系的な講義を聴いておくとよいのではないかと思います。
それから三番目は、これは多分法科大学院サイドや文科省がいわれていることと異なっていますが、法科大学院生が最もやるべきことは、司法試験に受かる勉強をすることだと私は思っています。一人前の法曹を目指すといっても、その人が高校生なのか、大学の法学部の学生なのか、ロースクール生なのか、修習生なのか、若手弁護士なのかということで、やっぱりやるべきことというのは違うのではないかと思います。そして、その中でロースクール生が今やるべきこととしては、司法試験に受かる勉強をするということが実は非常に比重があるのではないか、と思います。

―なるほど。基本的なことを今のうちにしっかり学んだほうがいいということですね。それでは、最後に、法科大学院生に向けてメッセージをお願いいたします。

吉田:本当に偉そうなことは言えないのですけれど、多分人間は、楽しい人生をどうやれば送れるかということをまず考えたほうがいいと思うのです。そうすると、長期的なことを考えて今何をすべきかということを考えていくし、実際にそのすべきだと思ったことをするのがいいと個人的には思っています。ロースクールの人は当然法律をじっくり勉強すべき立場だし、それをじっくりすることができるのは多くの人にとっては最後の機会なので、じっくりと法律の勉強をしてほしいなと思います。一人前の実務家になるためのトレーニングは試験に受かってからでも積めるので、まずは勉強をしてほしい。そして、勉強する中ではやっぱり基本が大事ですし、余り手を広げると自滅するので、基本をよく学んだ上で応用力をつけてもらいたいと思います。

 

【「そのまま吸収」「本当にそうか?」・・・どちらも重要では】

それと、学生の皆さんはいろいろな本を読んだり、いろいろな先生からいろいろなことを聞いたりするわけですけれど、それをそのまま受け入れて吸収しつつ、他方では、それは本当かなということをどこかでは考えている、悪く言うと疑う、ということが大事なのではないでしょうか。特に法律家の場合は、常に新たな問題というのがある訳です。法律問題でも新たな問題がある訳だし、法律問題としては新たな問題ではなくても少なくともこの件に適用できるかという意味では新たな問題なのですよね。だから、誰にでもできる仕事ではないはずです。そういうことを考えると、自分で考えるというのは非常に重要で、聞いたのをそのまま何でも受け入れるだけではなく、いろいろ考えて、本当にそうかなという意識も持っていて欲しい。そうはいっても、疑ってばかりでもだめなわけで、例えば何か問題があればね、最高裁判例があるのかとか、下級審の裁判例があるのかとか、一般の本や論文にはどのように書いているのかとかを調べる必要がある訳です。それを無視して、自分はこう思うというだけでは少なくとも実務家としては駄目だし、学者としても本当はきっと駄目なのだろうと思います。やっぱり、今まで言われてきたことや基本を吸収するのも大事だし、その上で考えるということも大事ではないかな、と個人的には思っています。

―ありがとうございました。

 

吉田 和彦
東京大学法学部在学中に司法試験合格、1990年に弁護士登録、同年中村合同特許法律事務所に入所。1993年弁理士登録。ハーバード大学ロースクールへの留学を経て、ニューヨーク州司法試験合格、同州弁護士登録(1998年)。Hughes Hubbard & Reed LLP法律事務所(New York)等の海外の法律事務所勤務を経て、現在中村合同特許法律事務所パートナーを務める。また、2006年から東北大学客員教授に就任、2009年現在同大学特任教授(客員)として、産学連携推進に携わっている。